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第140話 ギクシャク
サトナカとは明日、真島家に集合って事になった。
「ふわぁ~」
真島が大きなあくびをした。
「眠い?」
「あ~なんか家帰ってきたら途端に眠い。タオルケット~」
「んじゃオレ帰るわ。また明日な」
「え?帰んの?」
真島は本当に帰っちゃうの?とでも言うようなひどく無防備な顔をした。
こんな顔を見るのは長い付き合いで初めてかもしれない。
どちらかと言えば、今までは、え~泊まるのかよ~って感じだった気がする。
まああれも気持ちを隠すため、だったのかも知れない。
カワイイ……と思わなくもない……。
いやいや。流されるなオレ。
でもな……。
「泊まって欲しいか?」
「え?…いや。帰れ帰れ。そういうんじゃねえし」
「泊まってもいいか」
「いいよ。ムリすんなよ」
真島は灰谷に背を向けた。
スネる真島も珍しかった。
灰谷は真島が横になったベッドにドスンと腰を下ろした。
「つうか誰かさんのせいでいっぱい走って疲れてるし。家帰るのダルいんだけど」
「そりゃ悪かったな。じゃあ……泊まってけよ」
「おう」
素直じゃねえ~。
まあでもそこもなんか……。
「布団敷くわ」
真島がガバリと起き上がった。
*
「そっち」
「おう」
シーツの端と端をそれぞれ持って、ふわりと布団にかけ、シワを伸ばして下に折りこむ。
いつもの事なので二人とも慣れたものなのだが、どうにもいつもと何かが違う。
ぎこちなさがつきまとっていた。
一階の洗面所で二人並んで歯を磨く。
これもいつもの事なのでどうってことないはずなのだが、なぜだか今日はお互い妙にテレくさい。
それを隠したくていつも通りにしようと思えば思うほど、ぎこちなくなってしまう……そんな感じがしていた。
「信~母さんたちもう寝るね~」
パジャマ姿の節子が声を掛けて来た。
「うん」
「灰谷くん、泊まってくでしょ?」
「はい」
「明日、中田くんと佐藤くん来るなら、お昼はミートソースにするね」
「やった!食いたかったん……あ……」
「オマっ…口から垂れてる」
灰谷が真島にタオルを渡す。
「おう。サンキュ」
「フフフ」
節子が笑った。
「なんだよ母ちゃん」
「別に~。なんでもない」
「母ちゃん、朝は甘い卵焼き作って」
「卵焼き?わかった。じゃあおやすみ」
「母ちゃんおやすみ」
「おやすみなさい節子」
「は~い…フフフ」
節子が二人を見てまた意味ありげに笑った。
「なんだよ」
「あんたたち、そうしてるとまるで新婚夫婦。あ、夫と夫でフフか。新婚夫夫みたい。フフフフフ」
言うだけ言って節子が消えた。
「……」
「……」
気まずさのメーターの針がビューンと跳ね上がった。
「チッ」
灰谷が黙ったまま歯を磨いていると真島が舌打ちした。
そしてガラガラと大きな音を出して口をゆすぐと、先に行ってしまった。
ん~。
なんでだ気まずい……。
新婚夫夫……。
告白マジックか?
どっかそういうのがオレ達からモレちゃってるとか?
オレは別に平気だけど帰った方が良かったかな。
真島、なんかテレてるし。
いや、でも、帰んの?ってあん時の顔はなあ。
帰れねえよ。
「ん~。ムズイ」
灰谷はつぶやいた。
*
部屋に戻ると真島はタオルケットにくるまって目を閉じ、例の指で挟んでスリスリするやつ、をやっていた。
眠いのかな。
灰谷も布団に横になった。
しばらくして真島が言った。
「……しねえから」
「は?」
「襲ったりしねえから」
「何?」
「無理やり襲ったりしねえから、オレ」
灰谷は真島を見た。
真島が叱られる前の子供みたいな顔をして灰谷を見つめていた。
「フッッ……」
灰谷は思わず笑ってしまう。
「笑うなよ」
「いや、そんな事気にしてたのか」
「……」
気にしていた顔だった。
「襲わせねえし。……油断するなよとか言ってたくせに」
「……」
真島の顔をみていたら、少しいじめたくなった。
「キスとかしたくせに」
「……ワリぃ」
泣きそうな顔?
「オマエホント……」
カワイイな、という言葉を灰谷は飲みこんだ。
「ホント、なんだよ」
「忘れた」
「は?」
「まあいいじゃん。寝ようぜ。明日は朝から課題みっちりやるぞ」
「おう」
「で、あいつらにしっかりタカユキしろよ」
「うん」
「もちろんオレにも」
「おう」
「電気消して」
「うん」
「おやすみ」
「…おやすみ」
真島が電気を消した。
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