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ずぶ濡れの先輩の乳首
「お疲れ様です。水田(みずた)先輩、今日も傘差さないんですか?」
「ゲホッゲホッ、傘原(かさはら)君……なんで? 」
「なんでじゃなくて、風邪ひいちゃってるじゃないですか!」
傘原と呼ばれたのは僕。
今年の四月から新しい仕事を始めた。
職場は工場で、皆いい人で働きやすい。
ただ一つ気になることがある。
仕事を教えてくれる水田先輩がどんなに雨が降っても傘を差さない。
梅雨の季節になって、毎日雨が降っている。
水田先輩はずぶ濡れになって、歩いて出勤して来る。着替えもしないで濡れたまま働くから先輩の周りは水びたしになっている。
水田先輩は「水もしたたるいい男」という表現がぴったりの美男子だ。
だが、ちょっと濡れ過ぎである。髪もふかないから、水滴がしたたり落ち続けている。
いつも着てくる白いシャツが濡れていて先輩の肌に張りついている。
僕は水田先輩の顔にも、みとれてしまうが、雨に濡れてシャツから透けている肉体も気になってしょうがない。先輩、乳輪小さいな。そして乳首が立っている。
水田先輩は今日も傘を差さずに、激しい雨にうたれながら帰って行く。そこを呼び止めて、自分の傘に入れて話しかけた。
相合い傘の下で二人だけの空間を作り出して、先輩との距離が少し縮まったようで胸がおどる。
まわりの青いあじさいをバックに白い肌の先輩が映えている。写真を撮ってスマホの待ち受けにしたいくらいだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
「傘原君、ゲホッゲホッ。」
「僕、置き傘あるんで、この傘あげますから差して帰ってくださいよ!」
「いや俺、傘差さないから。気にしないで。」
拒否されてしまった。
「傘を差すのが嫌なら、レインコート着るとかしてくれませんか? 道行く人も、心配そうに見てますし。」
「俺いつもそうだから、気にしないで。」
水田先輩は僕の傘から出て、フラフラと歩いて行った。
僕は水たまりを跳びこえながら追いかけた。
「ちょっと失礼します。」
再び自分の傘に水田先輩を入れてから、先輩のおでこを触った。ひどく熱い。
「先輩! 熱があるじゃないですか!
僕、タクシー拾いますから、一緒に乗りましょう!」
「だから気にしないでえっ……」
そう言いながら水田先輩は僕に向かって倒れて来た。
慌てて抱きとめた。
先輩の体が熱い。
僕はタクシーを拾って先輩を乗せ、自分の住むアパートに向かうよう運転手に告げた。
☆☆☆☆☆☆
僕のアパートに着いた。
先輩の服を脱がした。パンツもずぶ濡れだったので脱がして洗濯機に入れた。先輩に僕のパジャマを着せベッドに寝かせた。
工場で働く前は介護施設で働いていたので、着がえさせるのは得意だ。
「うう、あれ? ここ、どこ?」
先輩が目を覚ました。
「僕のアパートです。先輩が倒れちゃったので、タクシーでここまで運びました。」
「えっ。誘拐?」
「そんなあ。
先輩の家知らないですから、うちに連れて来るしかなかったんですよ。」
「この服は何?」
先輩は僕が着せたパジャマに気付いた。
「先輩の服、ずぶ濡れだったので着替えさせました。」
「うそお。裸にしたってことか。」
普段は無表情の先輩が驚いた顔をした。新鮮だ。
「いつも雨に濡れて、シャツがスケスケなので職場でも裸見せてるようなもんですよ。」
「そ、そんなつもりはない。
……ゲホッゲホッ。寒い……。」
「僕が温めてあげますよ。」
そう言ってベッドの上に乗り上げた。
「いや、そういうのいいから。
毛布にくるまるよ。」
制止されてしまった。
「残念です。あっ、首にタオル巻いて寝るといいですよ。温かくなります。」
僕は部屋に干してあったタオルを取って、先輩の首に巻いた。
「ありがとう。ってちょっとにおうな。生乾きのにおいがする。」
「えっ、すみません。
昨日コインランドリー行けなくて部屋干しだったからかな。
タンスの中の持ってきますね。」
タンスの中のタオルをひっぱり出して、臭くないか確認をしてから先輩の首に巻いた。
「先輩、どうしていつも傘差さないんですか?」
「何もかも水に流して、嫌なこと全部忘れたいんだ。」
「雨で流れますか?」
「流れないね。全然。」
「じゃあ、僕が忘れさせてあげますよ。」
「いや、いいって。」
再びベッドの上に乗ろうとしたら、頭をおさえつけられてしまった。
「じゃあ、先輩。乳首あてゲームしません?」
「なんだ、いきなり。」
「僕の乳首がどこにあるか、服の上から当ててみて下さい。
当たったら先輩の言うことを何でも聞きましょう。
逆に僕が先輩の乳首を当てたら、僕の言うことを聞いて下さい。」
「…………。分かった、あてればいいんだな。」
「どうぞ。」
僕は先輩の両手の人差し指をにぎって、自分の胸に近づけた。
「どこだ? …………ここか?」
「ブーッ! 違います〜。」
「チッ、はずしたか……。」
「残念でしたっ。僕の乳首はここで〜っす!」
ぽち
先輩の両手の人差し指を、僕の乳首にあてた。
「…………くそっ、ここだったのか。」
「先輩、僕のやる気スイッチ押しちゃいましたね〜! さあ、次は僕があてる番です!」
僕は鼻息をフンッフンッと荒くした。
両手の人差し指をピーンとそらせて……
「先輩の乳首、どこかな〜? ここかな〜? エイッ。」
「オオゥッ。」
先輩がのけぞった。
「大当りですね! 僕の勝ちです!」
「…………何故、わかったんだ。」
先輩は服の上から自らの乳首をおさえている。
「先輩の乳首、いつも濡れたシャツから透けてますからね〜。場所もちゃんと覚えてますよ〜。」
「なんだって……。それで俺はこれからどんな命令をされるんだ?」
「フッフッフ。それはですねぇ。」
「もったいぶらないで早く言え。」
「先輩、今日から僕と一緒に住んで下さい。
そして雨の日は相合い傘して、一緒に通勤しましょう。」
「…………わかった。」
こうして先輩はもうずぶ濡れじゃなくなった。
僕の心に虹がさした。
先輩の心にもきっと。
おしまい。
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