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第1話
追いかけっこ
香月琉夜
「くそっ」
一歩一歩足を取られる。砂浜がこんなにも、走る上で人をイライラさせるものだとは思わなかった。弘樹はどんどん前に進んで、俺より十歩は前に出ている。なぜこんなに差が出るんだ。
「はぁ…はぁ……ちょっとは手加減しろよ‼お前……早すぎんだよ。弘樹‼」
「おっせぇ~なぁ~、ノリ、お前やる気あんの?」
俺の名前は「範道」という。小学校からついた名が「ノリ」とか「ノリ君」である。まぁ今はそんなことはどうでも良い。
しかし、この砂浜はなんという熱さなんだ。一歩一歩砂浜に足がうまりそして肌を熱痒い感じにさせてくれる。弘樹も条件は同じはずなんだが、奴はなんであんなに速いんだ。
弘樹はすでにゴールに指定した地点に到着して、ニヤついた顔で俺の方を見ている。
「ノリ、約束通りかき氷奢れよなぁ~」
「お前、足に何かつけてない?」
弘樹は俺の方向を向いて、頭から足先まで目を落とした。
「ノリ、言いたくないんだけどさ」
「なんだよ?」
弘樹は何かもったいぶっているのか、中々言い出そうとしない。
「そんなにもったいぶって言うようなものか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」
「じゃあ早く言えよ」
弘樹は横を向き、空を仰ぎ見て後頭部をポリポリと指で掻いている。そして一言、俺に言った。
「だってさ…………お前、太ってんじゃん」
数秒の時が流れた。
「あ」
「え?」
「あぁ、だよな、そうだよな!ははは」
「だろ?」
俺と弘樹は海の家に足を進めた。弘樹にかき氷を奢るために。
海は無限に広く見え、風が自分を通り過ぎた。その風は遠くに見える小島をも過ぎ去って、その先にいるカモメの軌道をブレさせた。
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