1 / 1

第1話

追いかけっこ               香月琉夜 「くそっ」  一歩一歩足を取られる。砂浜がこんなにも、走る上で人をイライラさせるものだとは思わなかった。弘樹はどんどん前に進んで、俺より十歩は前に出ている。なぜこんなに差が出るんだ。 「はぁ…はぁ……ちょっとは手加減しろよ‼お前……早すぎんだよ。弘樹‼」 「おっせぇ~なぁ~、ノリ、お前やる気あんの?」  俺の名前は「範道」という。小学校からついた名が「ノリ」とか「ノリ君」である。まぁ今はそんなことはどうでも良い。  しかし、この砂浜はなんという熱さなんだ。一歩一歩砂浜に足がうまりそして肌を熱痒い感じにさせてくれる。弘樹も条件は同じはずなんだが、奴はなんであんなに速いんだ。  弘樹はすでにゴールに指定した地点に到着して、ニヤついた顔で俺の方を見ている。 「ノリ、約束通りかき氷奢れよなぁ~」 「お前、足に何かつけてない?」  弘樹は俺の方向を向いて、頭から足先まで目を落とした。 「ノリ、言いたくないんだけどさ」 「なんだよ?」  弘樹は何かもったいぶっているのか、中々言い出そうとしない。 「そんなにもったいぶって言うようなものか?」 「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」 「じゃあ早く言えよ」  弘樹は横を向き、空を仰ぎ見て後頭部をポリポリと指で掻いている。そして一言、俺に言った。 「だってさ…………お前、太ってんじゃん」  数秒の時が流れた。 「あ」 「え?」 「あぁ、だよな、そうだよな!ははは」 「だろ?」  俺と弘樹は海の家に足を進めた。弘樹にかき氷を奢るために。  海は無限に広く見え、風が自分を通り過ぎた。その風は遠くに見える小島をも過ぎ去って、その先にいるカモメの軌道をブレさせた。

ともだちにシェアしよう!