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最終話:ずっと一緒にいよう。

「ケ……イ……」 「ん……? どう、したの?」  二人して肺を大きく上下に動かし、薄くなった空気を取りこみつつ見つめ合う。 「すごく、気持ちよかったよ。ケイとのセックス、大好きになりそう」  ついケイの汗で濡れた額や鎖骨に見惚れてしまい、頬が高揚してしまう。と、目の前でケイが困ったように眉を下げて、奏人の胸に額を落とした。 「奏人さん、それ……天然なの?」 「え?」 「さっきもそうだけど、ボクをドキドキさせる言葉ばかり言って……その度に心臓が破裂するかと思うくらい、ビックリしちゃうんだけど……」  セックスの最中の「愛してる」や、今の言葉はケイを刺激していた。そう言われ、奏人は驚きに目を見開く。 「そうだったの? 俺、そんなつもりは……」 「……やっぱり無意識だったんだね」  長く深い溜息を吐きながら、ケイが脱力する。 「ボク、あの人の気持ちは理解できないけど、今なら執着の意味が少し分かるかも」 「あの人って、彰文さん?」 「そう。奏人さんがそうやってボクの心を掴んで離さないから、どんどん好きになって、手放したくなくなる。これって執着だよね?」  問いながら、ケイが何かに思い詰めたかのように表情を暗くする。 「何か、心配でもあるの?」 「うん。いつかね、この感情であの人みたいに奏人さんを縛っちゃうようになったらどうしようって。それを想像すると少し怖い」  人は愛で強くもなれば、弱くもなる。その姿を目の当たりにした奏人だからこそ、ケイの恐怖は痛いほど理解できた。  確かに、ケイの愛情は人よりもずっと強い。愛する人間を取り戻すためなら、どれだけでも自分を犠牲にできる。時には非情になって敵を作ることも厭わない。そんなケイの覚悟には、恐らく奏人さえも敵わないだろう。 「ケイが怖がる気持ち、理解できるよ。でも、俺は大丈夫かなって思う」 「どうして?」 「だって、彰文さんの愛は完全に別の方を向いてたけど、俺達の場合は両想いだろ。だからケイの愛は、ちょっと暑苦しいぐらいで終わるんじゃない?」  それこそ今までと変わらない関係が続く、そんな気がする。 「だから、ケイは今のままでいいよ。ただ……そうだね、もしケイが束縛するようになったとして……」  シーツに埋まっていた腕をそっと上げ、指先でケイの頬を撫でる。 「それはそれで、ちょっとゾクゾクしちゃうかも?」  ケイの魅力的な容姿に惑わされ、抵抗を忘れたところで逞しい腕に捕まり、逃げられないよう快楽で縛られる。以前の自分なら想像すらしなかったことだが、ケイになら何をされてもいいと思ってしまう。  やはり自分は既に相当絆されているらしい。 「だから、そういうことを…………っ」 「え? やっ、嘘……」  愛おしいという思いと共にケイを撫で続けていた最中、奏人は突然、下腹部にズンッと鈍く重たい衝撃を感じた。  この圧迫的な感覚には、覚えがある。  「ちょっ、何で大きくしてるのっ!」  まだ自分の中からケイの雄が抜かれていないことは自覚していたが、まさか入れたまま勃起されるなんて思ってもいなかった。 「奏人さんのせいだよ! ボクを誘うようなこと言うから……」  無意識にも程があると抗議され、奏人は閉口してしまう。さっきも言ったが、そんなつもりは毛頭ない。しかし、口先を尖らせたケイに弁解しても、通じなかった。 「責任取って」 「責、任って……?」 「勿論、もう一回。……いい? ちゃんと優しくするから」  不満を零していたかと思えば、いきなり耳朶にキスを落としてきて、甘美に懇願する。まるで、こちらが絶対に拒絶しないと知っているかのように。 「ん……もう、仕方ないなぁ」  こういう年下気質なところは、少しずるい気がする。が、焚きつけた自分も悪い。  奏人は既に臨戦態勢のケイを軽く小突くと、観念するかのようにそっと足を開いた。 END

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