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筧 義松⑥
アオイはようやくペニスを握ってくれた。
緩やかな速度でそれを扱きながら、チュッチュと啄ばむように乳首も吸われる。反対の手では乳首を捏ねたり陰嚢をやわやわと揉んだりと忙 しない。
そのうち義松は無意識にゆらゆらと腰を振りはじめた、そのとき。突然ぎゅっと根元を強く握られ義松は瞠目した。
「やっ……何……?」
アオイは乳首に吸い付いたまま、上目遣いにチラリと義松の顔を見ただけで、構わず根元を握りしめたままで扱きたてる。
絶頂はどんどん迫ってくるのに、強く握られているせいで中々そこまで辿り着けない。
腰をガクガクと震わせて「やだ、イきたい……イかせて!」と強請れば、今度はアオイの手がパッと離れた。
「あ……」
突然快楽の渦の中から放り出され、愕然とする。縋るような目で仰ぎ見ると、アオイは緩慢な動作で体を起こしながらタイマーを確認するところだった。
「まだ10分しか経ってないんだけど。もうイきたいの? どんだけ早漏なんだよ。折角来たんだし、もうちょっと我慢しようよ」
「うぅ……」
「できるよな?」
そしてアオイは小首を傾げ、にこりと微笑む。
思わず義松はこくんと頷いた。
「俺も……アオイさんのおっぱい触りたい……」
押し倒されていた体勢から、義松はよろよろと起き上がった。
せっかくオプション①②をつけたというのに、今日はまだアオイのおっぱいに触れていない。入室早々に押し倒されたのだから当然だ。
「いーよ、俺のおっぱい気に入った?」
「あ、待って」
くすりと笑って、自ら脱ごうとするアオイの手首を掴み義松はストップをかけた。
「俺が、脱がせたい……」
アオイは無言のまま微笑んで、ボタンにかけていた手を下ろす。
義松は息を呑んで、向かい合わせで膝の上に乗っかるアオイのシャツに手を伸ばした。
今日のアオイは淡い水色に白のパイピングの入った、半袖のパジャマシャツを着ていた。ボタンを一つ、また一つと外す度に興奮が募っていくようだ。
「ねぇ手、震えてない?」
揶揄するように笑ったアオイを、義松は無言で睨みつけた。興奮のあまり気持ちばかりがはやり、指先が上手く動かない。
不器用にボタンを外し終えた義松は、露わになった美味しそうな乳首に切羽詰まった様子で早速かぶりついた。
さっき自分がされたように、唇で啄むように乳首を引っ張ったり舌先でつついたり。
「んっ」
とアオイが堪え切れず声を零した。
アオイの股間に手を伸ばすと、やはりそこは勃っている。
喜びを感じるのもつかの間、ぴしゃりと手を叩かれて「チョーシ乗んな」と怒られてしまった。
次の瞬間、ペニスをむんずと握られ「う」と義松は呻き声を上げる。
ものすごいスピードで扱かれ始めると、アオイのおっぱいを堪能する余裕もなくなり、ぎゅっとアオイの裸の胸に縋りつくように抱き着いた。
「ああっ!? な、何っ」
「チョーシ乗ったお仕置き~。ちゃんと耐えてね」
「あっ、あっ、あっ! や、声……っ、出ちゃうっ!」
「いいよ、いっぱい出せば」
「あ、あっ! ダメ、イく、イく、イく……ツ!」
そして義松はあえなく達してしまった。
「あ~あ、耐えてって言ったのに」
と、どことなく楽しそうな声が頭に降ってくる。
しかし義松の耳には入らなかった。
はぁはぁと肩で息をしながらも、目の前の美味しそうなアオイのおっぱいに気が付いてしまったのだ。義松は魅入られたように釘付けになり、思わずぱくりとその愛らしい突起を再び口に含んだ。
「……おい」
「ん……も、ひょっとらけ……」
ちゅうちゅうと赤ん坊のように乳首を吸いはじめた義松に、アオイはわざとらしいほど深々と溜息を吐いてみせた。
「でっかい赤ん坊だな」
何とでも言ってくれ。
さっきは余裕がなさすぎて、心ゆくまでおっぱいを堪能できなかったのだ。
構わず吸い続ける義松に、時々アオイが「んっ……」と声を押し殺して身動ぎをした。
アオイも感じているかと思うと、ムラッと、先ほど吐き出したばかりのはずの欲望が再び湧き上がってくる。
兆しはじめた自身を感じながら、もう一度アオイに触れてもらいたいと思った。
彼の手を取り、再び自身のペニスに誘 おうとしたとき……。
ピピピピピピピ。
このタイミングで鳴るのかよ、と落胆する義松を「はい、おしまい〜。時間だよ。早く仕舞いなよ、ソレ 」とつっけんどんな口調で押しのけた。
ほんのりアオイの頬が染まっているのは、気のせいだろうか。
「アオイさんも……少しは興奮した?」
「そんなわけないでしょ。そんな粗品で、俺が興奮するわけ」
「粗品って酷いな……。でもアオイさん、勃ってる。勃っちゃったときは、どうするんですか? ムラムラしないの?」
「うるさい、ほっとけ。それより、あんたのせいで腹減った」
「えぇ? 俺のせい?」
理不尽な言いがかりに苦笑しながら、義松は押し付けられたティッシュで自身の精子濡れになったペニスを拭いた。
「ラーメン食いに行くぞ」
「え? ……えっ?」
「なに。童貞包茎くんに、日曜の夜に生意気にも予定があるって?」
「いや、ないですけど……包茎は関係ないです。ってゆーか! 童貞じゃありません!」
「ラーメン嫌い?」
「嫌いじゃ――」
「じゃあ良いじゃん。決まり。あんたの奢り、な?」
するりと首に腕を回される。
これはもう、キスをする距離だ。
目の前に迫ったアオイの美麗な顔が、な?と小首を傾げた。落ち着きはじめていた下半身が再び滾るのを感じる。
ドギマギしながら義松がこくりと頷くと、アオイは満足げに笑った。
「着替えて部屋片づけたら今日はもう終わりだから。多分15分後くらい。適当に近くのコンビニとかで時間潰しといてよ」
*
そして義松は今、店の近くのコンビニで立ち読みをしながら時間を潰していた。
自分は一体何をしているんだろうか。
言われた通り、律儀にアオイを待っているものの、本当に一緒にラーメン屋に行くのだろうか。
……何のために?
いやそれはラーメンを食すために他ならないけれど、アオイは何のために義松を誘ったのだろうか。
客がキャストの連絡先を聞いたり、店の外で会おうと迫ったりというのは、他の店でもよくある話だ。
しかし連絡先をすっとばしていきなり飯。
それもお誘いは向こうから。
しかも、ラーメン。
残念だが、色っぽい期待はできなさそうだ。
それでも義松はウキウキしながら、アオイが出てくるのを待っていた。
「おまたせ」
15分を過ぎたところで義松は立ち読みを切り上げ、コンビニの前でアオイを待つことにした。
ほどなくして、目の前の信号が青になり、普段着に着替えたアオイが横断歩道の向こうから小走りでやってくる。
トップスはシンプルな黒のTシャツ。ボトムは細身のジーンズ。
本当に普通のオトコノコだ。
店では惜しげもなく晒していた美脚が、すっぽりと衣類に包まれている事に、少しばかり落胆する。
それと同時に、普通だったら見られるはずもない普段のアオイの姿に、義松は胸をときめかせた。
「そんなに待ってないです。ちょうど15分くらいですよ」
「ん。じゃ、行くか」
……なんだこのやり取り。ちょっとデートみたいじゃないか?
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