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第11話
唇を離すことなく弟の手が俺の体をまさぐる。俺の脚へ跨っているのに、重くないのは弟が膝を立てているからだ。俺を気遣ってくれているのか、それともただ真上から俺を見下ろしたいだけなのか。俺には何もわからなかった。
枕を捨てられたあと、縋るものをなくした俺の手は弟の背中に回されている。枕を捨てたあと、弟がそうしろとばかりに俺の腕を持ち上げたからだ。触れたところが多くなったせいで更に息が上がる。
どれだけ噛んだって番になんてなれない。それは俺と弟がΩとβだからじゃない。
項を噛んだら番になれるなんてひと昔以上前に流行った迷信だからだ。
番制度は確かに結婚よりも強い結びつきだと聞くけれど、書類上は何も変わらない。
αとΩは子供を作り共に生きていく本能が強いだけで、β同士の結婚と大きな差はない。番だけが特別なんじゃない、βの夫婦だって、色んな組み合わせのカップルだって、生涯結婚相手にしか興味を示さない人間はごまんといる。
ただΩには発情期があって、それがβ同士の結婚とは違うところだ。発情期は抑制剤を飲まなければ、人じゃなくなる。フェロモンをまき散らしてαだけじゃなくβすら誘う。番になれば、それは自然とパートナーにだけ向けられる。夢を見過ぎだと思うけれど、自分だけをずっと愛してくれる人を望むのは当たり前のことだろう。
科学的にどうなってるのかなんて知らない。教科書に書いてあって、Ωの頭で理解できるのなんてそれくらいだ。
弟が迷信だって知っているのかはわからない。だけれど、噛みつかれ、舐められ吸い付かれる。そのひとつひとつに俺が体を悦ばせているのは事実だった。もし、弟がβじゃなくてαだったら……。
迷信だってわかっていても、一番ひどかったのが項だった。寝転がった俺の項を噛もうとするせいで、弟が俺の頭を持ち上げて首筋に何度も顔を埋める。口が近づき吐息がかかるだけでぞわりと体が喜んで自ら項を差し出してしまう。噛まれている間、弟の首筋がすぐそばにあってフェロモンなんて出てるはずがないのに、弟の汗と肌の匂いが頭をくらくらさせた。
うっすらと鉄の匂いが漂う。痛みすら感じないほどに酔ってるせいで、どんな力で噛まれたのかもわからない。
べろりと赤い唇を舌で舐めた弟は、兄の俺から見ても色っぽくて思わず目を逸らしてしまった。あの赤が自分の血だとわかっていても、心臓が期待に踊る。
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