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梅雨におけるちょっとした幸せ
「ああ、もう!」
家事は分担。
同居するときに約束したわけじゃないけど、なんか自然とそうなってる。
だから、食後に食器を片付けるのは、作らなかった方。
今朝は君が作ったので、片づけはオレ。
水切り籠に洗った食器を並べたあと、シンクを磨いていたら、洗面所の方から苛立った声がした。
そのあと、君はガシャガシャと、リビングに簡易物干しを組み立て始めた。
「どうした?」
「雨続きで、洗濯が全く乾かねえ」
「まあ、梅雨だからねえ」
「なのに誰かさんが張り切って洗濯もの増やすし」
「あー……」
全然ってことは、昨日洗った洗濯も乾いてないのかな。
風呂場の物干しは、もう、いっぱいなんだろう。
しかし、洗濯物を増やしたのはオレだけのせいじゃないはずだ。
昨夜、久しぶりの休日前夜だとエキサイトしたのは、お前も同罪。
窓の外は、どんよりとした雨空。
「コインランドリー、行く?」
ベランダから持ってきた竿を、器用に部屋に渡して、干す場所を増やしていく君に声をかける。
「いい。これでエアコンかければ、今日中には乾くだろ」
ボクサーパンツ。
緩めのトランクス。
色のついた靴下。
五本指の靴下。
真っ白な足袋。
軍手。
白のTシャツ。
色付きランニングシャツ。
部屋着のジャージ。
ハーフパンツ。
白いステテコ。
ところどころほつれたツナギ。
デコボコした楊柳織の襦袢。
真っ白な和服は、白衣と書いて“はくえ”と読むのだと最近知った。
大きめのバスタオル。
シーツ。
枕カバーが二枚。
防水シーツは、オレたちが愛し合うのに必要なもの。
次々と君が干していく洗濯物を見ていて、嬉しくなった。
「キモイ」
「ん?」
「洗濯物眺めて、何にやついてんだよ」
「いやだって、嬉しいなって思ってさあ……」
「は? 洗濯物が乾かないのが?」
眉間にしわを寄せて、本気でボケてる君を抱き寄せる。
「洗濯物がごっちゃになってるのが」
青空の下で気持ちよく干されているのを見ても、同じように感じたと思う。
けどさ。
自分ちのリビングだよ?
ものすごくプライベートなところに、当たり前のようにごっちゃになって干されている洗濯物。
これ、すっげー幸せでしょう。
「ふたり分の洗濯一緒に干されてたら、ホントに一緒にいるんだなあって、嬉しくなったんだよ」
だから、また洗濯物増やしちゃっても、怒らないでね。
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