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第0.5話 いつもの夢

目の前で淡い桃色の髪がふわふわと揺れ、青色の瞳が優し気に弧を描く。 また同じ夢だと思いながらもアヴェルは柔らかい流れに身を任せた。 何度も何度も繰り返し見るこの夢の始まりも終わりも知っている。 それでも、大切なことを思い出させるかのように幾度もこの夢を見るのだ。 「あなたはもうお兄さんだから大切なことを教えてあげるわね。幸せの魔法。一日に三回これを食べるのよ」 「キラキラだ…」 「金色のアメよ。これを食べれば誰でも笑顔になれるの」 「ぼくでも?」 「そうよ。これは梅雨に降るの。お父さんが毎年集めてくれるでしょ?」 キラキラと輝く小さな粒を手に取るとアヴェルは膝をつき自分を見つめる母親に首を傾げた。 「おかあさん、つゆってなぁに?」 「アメがたくさん降る季節よ」 「アメはきれいなの」 「そうね。お空からコンコンって降るアメはすごくきれいよね。ほら、アヴェル、これを食べてみて」 「ん…あまい…」 「ふふっ、体はどう?」 「あのね、ここがポカポカするの!」 「ここはね、心よ。幸せは心で感じるの」 「こころ…しあわせ…」 「そうよ、アヴェル。あなたもね、これを食べれば幸せを感じて笑うことができるのよ」 「みんなみたいに、ニコニコできるの?」 「そうよ、ほら、鏡を見て!ニコニコしてるでしょ?」 「わぁほんとだ!」 生まれつき笑うことができない幼い自分に母親がくれた魔法のアメ。 この魔法がかかっている間は皆みたいに幸せを感じ微笑むことができる。 この夢を見るたびにこれがあれば普通の人間になれるのだとアヴェルは感じた。

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