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第2話

「うわ~ん、カズ~!」 「朝練後の汗臭い身体で抱きつくな」  教室に入るなり飛びついて来た亮太を引きずりながら、俺はとりあえず自分の席へと着く。 「ちゃんとシャワーで汗流したよ!」  俺の前の自分の席へと座った亮太はふて腐れたように反論してきた。  ここ聖都(セイト)学園は学校にしては珍しく、運動棟にシャワーが完備されているので、バスケ部に所属している亮太も朝練後にそれを使ったのだろう。 「はいはい。で、今度は何だ?」  どうでもいい亮太の言い分を聞き流して、俺は呆れながらも聞いてやった。  すると、亮太は急に情けない泣き顔になる。 「佳奈(カナ)ちゃんが……」  佳奈ちゃんって誰だ?  聞き慣れない名前に、俺は必死に記憶の中を探ってみる。 「ほら、一週間前の」 「ああ。合コンで知り合って付き合いだしたっていう……」  そう言えば少し前に 『新しい彼女が出来た!』  と、騒いでいたような気がする。  どうでもいいから、ちゃんと聞いてはいなかったが、確かそんな名前だったような。 「そう、その佳奈ちゃんが……二股かけてたんだ!」 「…………」  またか……。  今度こそ、俺は本当に呆れてため息を吐いた。 「なんだよ、幼馴染みが失恋したっていうのにその態度! 可哀想だと思わないのか」  俺の態度が不満だったのか、亮太がさらに喚いた。 「可哀想だと思う気持ちなんか、とっくに消え失せた。だいたい、お前が彼女取られるの何回目だと思ってんだ」  俺と亮太は小学生のころからの幼馴染み……もとい、腐れ縁だ。  さらに小さいころに一方的に取り付けた約束を守ってなのか、亮太は彼女が出来たらもちろんのこと、好きな子や気になる子が出来ただけでも律儀に俺へと報告してくるのだった。  だから、そんな亮太の恋愛事情は全て俺に筒抜けなのだが、こいつはいつも付き合った彼女を他の男に取られている。 「今度の相手はイケメン眼鏡じゃないだろうな。また千歳に絡んでみろ。今度こそ本気で見捨てられるぞ」  俺が今、教室に姿が見えない親友・高瀬千歳(タカセチトセ)の名前を出すと、亮太はばつの悪そうな顔をする。  佳奈ちゃんとやらの前に付き合っていた彼女の沙織(サオリ)は、亮太にしては珍しく数ヶ月続いていたが、それも二週間くらい前に終わってしまった。  眼鏡をかけたイケメン男に取られたのだ。  そして、沙織に振られたショックの八つ当たりでクラスメイトの千歳が「眼鏡をかけたイケメン」という理由だけで、亮太に首を絞められたことは、まだ記憶に新しい。 「いや、千歳には悪かったって。それに今回は眼鏡かけてないから大丈夫」  何が大丈夫なんだかよくわからないが、亮太があまりに自信を持って言うから、あえて突っ込まないでおくことにした。 「だいたい、なんでお前はいつもいつも浮気されるんだ? 女見る目ないな」 「彼女達はそんな軽い子じゃない!」  呆れて言った俺に、亮太はむきになって反論した。 「だったら、お前に男としての魅力がないってことか。アッチは? ちゃんと満足させてやってる?」 「あっち……って?」  亮太は何のことだかわからない、といった表情だ。 「アッチって言ったら、セック……」 「うわぁ~!」  わざわざ説明してやろうと思った俺の口を、亮太は慌てて両手で抑えてきた。 「ん、んんっ!」 「それ以上言うな~」  そう言いながら、亮太は俺の口から手を放そうとしない。  しかも動揺しているせいか、口と一緒に鼻まで必死に抑えている。  苦しいって! 「いてっ!」  俺が指に噛み付くと、亮太はやっと手を離した。

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