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第4話※
「ちょっと遅れたかな」
俺は待ち合わせ時間を五分ほど過ぎている腕時計を見ながら、駅前へと向かっていた。
待ち合わせ場所近くに着くと、夜だというのにまだ人の流れが多く、駅に向かう人やこれから飲みに行くであろう会社員などで駅前は騒がしかった。
そんな人混みの中から、俺は一人の男を見つけた。
改札横の壁に寄りかかり、煙草を吸っている二十代前半くらいの茶髪の男。
あいつだ。
俺は直感的にそう感じて、その男に近づいた。
「アンタがナオさん?」
俺がそう声をかけると、相手は一瞬驚いたようだが、すぐに俺の姿を上から下まで見ると、笑って言った。
「君が……カズくん?」
「そうだよ。遅れてごめん」
「君みたいな子なら、待たされるのも苦じゃないよ」
ふ~ん……自然とこんなセリフが出てくるやつか。
背も高いし、顔も悪くない。なにより、遊び慣れた感じが面倒くさくなさそうだ。
「どうする。食事でもする?」
ナオがそう聞いてきたのに対して、俺は即答で返す。
「直行でいいよ。アンタもそれが目的でしょ」
誘うような視線でその言葉を言うと、ナオは少し驚いたようだ。
今が八時ちょっと過ぎ……明日は平日だから、夜中には家に帰らないといけない。
俺は食欲よりも性欲を選んだ。
「意外とカズは積極的なんだな」
「そういうのは嫌い?」
俺の言葉に、ナオは笑いながら肩を抱いてきた。
「いや、大歓迎。じゃあ、近くのホテルでいい?」
「ナオに任せるよ」
俺も甘えて肩に頭を乗せてみたりする。
「了解」
甘えた態度が気に入ったのか、ナオは嬉しそうに言った。
そうして俺達は、駅前から離れることにした。
◆ ◆ ◆
「俺は浴びてきたからいいけど。カズ、シャワー使う?」
ホテルの部屋に入るなり、ナオが聞いてきた。
「うん、借りる」
そう答えた俺はナオからタオルとバスローブを受け取り、浴室へと消えた。
シャワーのお湯を頭から浴びて、俺はこれからのことを考える。
ナオの連れて来たこのホテルは、男同士もOKで浴室設備がいいことが一部の人間には大人気だ。
部屋の選び方からしてもナオがここを使うのは初めてじゃないことがわかる。
久々に、満足出来るかも。
やっぱり初めての人間よりも、男経験のある奴の方が断然いい。
中には自分好みに調教したい奴もいるようだが、どうせ遊びなら相手のリードで、気持ちよくさせてもらった方が楽に決まっている。
その点、ナオは男を抱き慣れてそうだし、あの自信ありそうな瞳は、テクもそれなりに持ってそうだ。
あの腕に抱かれるかと思うと、ゾクッと全身に刺激が走る。
そんな逸る気持ちを抑えつつ、俺は軽く身体を洗い流した。
シャワーを浴び終えて出ると、すでにナオも服を脱いでバスローブ姿でベッドにいた。
俺が近づくといきなり腕を引かれて、身体を反転してベッドの上へと押し倒された。
「んっ、ふぅ……」
そのまま覆い被さるようにして、深いディープキスをされる。
やっぱり、こいつ上手い。
ナオのキスはかなり巧みだった。
呼吸が苦しくならない程度に、強く舌を絡めてきたかと思うと、今度は労わるようなソフトなキスに変わる。
しばらくして、ナオの唇が離れるころには俺はすっかりナオのキスの虜になっていた。
「ナオ……すごいね。キスだけでこんな感じさせてくれるなんて」
解放された唇が何だか物足りなく感じて、俺は舌で自分の唇を舐めた。
「俺のキスは好き?」
「うん。すっごく感じる」
俺が演技でもなく本心からそう言うと、ナオは満足げな笑みを浮かべて、俺の下へと手を移動させた。
「本当だ。カズのここ、キスだけでこんなになってる」
「あ……あぁ、んっ!」
バスローブの裾から入り込んできたナオの大きな手の中に、俺自身を包み込まれて身体が震える。
「もっと俺にキスして欲しい?」
ナオの右手に捉えられたまま、耳元でそう囁かれ俺は素直に頷く。
耳にかかる吐息にすらキスされているようで、ナオの手の中でどんどん俺自身が育っていく。
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