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古の文(ふみ)を繙く(ひもとく)は。

 上の方や横の方は、青くくらく鋼はがねのように見えます。 そのなめらかな天井てんじょうを、つぶつぶ暗い泡あわが流れて行きます。 『クラムボンはわらっていたよ。』 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』 『それならなぜクラムボンはわらったの。』 『知らない。』  つぶつぶ泡が流れて行きます。 蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六粒つぶ泡を吐はきました。それはゆれながら水銀のように光って斜ななめに上の方へのぼって行きました。          『やまなし』青空文庫            著 宮沢賢治 原文より

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