13 / 210

第13話 混乱

あさみさんに送った写真は、なぜかプリントアウトされ、御丁寧に可愛らしいフォトフレームに入れられ、俺たちの元へとかえってきた。 「いらねえ!クソほどもいらねえ!」 涼太が写真をゴミ箱に叩きつける。 ・・・後で拾っておこう・・・ 「あのドス黒、強引に迫って来たかと思えば、次は何の嫌がらせだよ!」 「まあまあ、落ち着け涼太。あさみさんも悪気があるわけじゃねえ。ただの腐女子だ。普段、仕事でお世話になってるお礼だと思えば腹も立たねえだろ?」 「お礼が高すぎるわ!悪徳金融業者か!」 「わかったわかった、今日は俺が奢ってやるから、涼太の好きなハンバーグ食いにいこーぜ」 「そんなもんでオレの機嫌が直るわけねえだろ!」 そう言いながらも、涼太は寝室に入ってジャケットを羽織ってくる。 「早く行くぞ!」 口調は怒っているが、足取りは軽やかだ。 ほんと単純だな・・・ほんとにクソかわ涼太くんなんだから! 俺達は近所にあるハンバーグ専門店へ入った。 「うめぇ~!ここのチーズイン、マジ最高!」 さっきの怒りはどこへやら。 チーズインハンバーグひとつで、ここまでごきげんになるとは・・・ 本当に美味いのかわからない無表情だけど、テンションが上がっているのは声のトーンでわかる。 生まれ変わったら、俺、ハンバーグになりてぇな。 ・・・涼太、あれから何事も無かったように普通だな。 なんとも思ってねえのかな。 二人の体の熱さを何度も思い出して胸が詰まる思いしてんのは、俺だけなのか? 「あれ、山田じゃねえ?」 声をかけられて振り返ると、同じ学部の同期、宮野が立っていた。 「やっぱ、山田じゃん~。偶然だな、家この辺なの?」 「すぐ近くだよ、おまえもこの辺?」 「そーそー、たまにここに晩メシ食いに来んの、・・・友達?」 「あ、うん。中高一緒のやつ、ルームシェアしてんだ」 涼太は、俺達をあまり気にする素振りもなく、ハンバーグにご満悦のご様子。 「どーも、俺、山田と大学一緒の宮野っす」 「あ、どーも」 「俺も一緒していいっすか?」 え?なんでだよ、図々しいだろ宮野!邪魔すんな! 「どーぞ」 ええ~?なんでOKなの? 何故か涼太の隣に座る宮野。おい、図々しいにも程があるぞ。 「俺、宮野のぞむってゆーの、のぞむって呼んで。そっちは?」 「小林涼太」 「じゃあ涼ちゃんだな」 おいいいい!宮野!なーにが涼ちゃんだよ、帰れよてめえ! 「涼ちゃんてさ、めっちゃキレイな顔してんね。肌もめっちゃキレイじゃん」 「おい、宮野・・・」 「ごめんて、山田もちゃんとカッコイイからさ!」 そーゆー事じゃねんだよ。近ぇんだよ、涼太との距離が! 「ちょっとほっぺ触っていい?」 コラァ、宮野!調子乗ってんじゃねえ! 「いいけど」 いいのかよ! 涼太!他人に簡単に体を触らせるなんて、親が泣くぞ! 「ああ~、想像通りのスベスベじゃん~!」 「宮野、ハンバーグ食いに来たんだろ。早く注文しろよ」 「あ、そーだな、じゃあ涼ちゃんが食ってるのと一緒にしよ。すいませーん、チーズインハンバーグセット、ドリンクはコーラで!」 なーんで、一緒なもんを注文すんだよ!きめーんだよ、てめえは! 「にしても、まじキレイだね、涼ちゃん」 「キレイじゃねーし。のぞむ?のがカッコイイじゃん」 のーぞーむ?はぁ?カッコイイ?はぁ? なんでそんな無表情で、そんな対人力あんだよ!どーみても人見知りキャラだろうが! 「えー、涼ちゃんみたいなキレイなヤツにかっこいいって言われると照れちゃうな~」 「だからキレイじゃねえって」 初対面でイチャついてんじゃねえよ。 「あ、ハンバーグ来た。涼ちゃんも食べる?」 「え?いいの?」 「いいよー、はい、あーん」 「涼太!まだ腹減ってんなら追加で頼んでいいから」 「え?まじ?じゃあ次トマトソースのやつにしよっかな~」 宮野、てめえ 何が、あーん、だよ。馴れ馴れしいんだよ。 これ以上は近付かせねえからな。 「なんだよ、邪魔すんなよ山田。せっかく涼ちゃんと間接キッスできるチャンスだったのにー」 「間接キスって・・・なに?のぞむも変態なの?」 「も、ってなんなの?他に誰かいんの?」 涼太がこっちをチラッと見る。 「ま、いいや、俺は変態かもねー、美人限定だけどね」 もー、早く食って帰れよ宮野。 「あ、そーだ、次の金曜にK大の女子とのコンパあるんだけど、二人とも来ない?男足りなくてさー」 「宮野、悪ぃけど俺達遠慮・・・」 「いいよ、仕事終わってからでいいなら」 え?ちょ、え?涼太くん? 「じゃ決まり~、場所と時間決まったら山田に連絡いれとくねー」 はぁぁぁぁ、なんか、疲れた・・・ 部屋に帰ってから、さっきの涼太と宮野のやり取りを思い出す。 クッソ宮野のヤロー、なんなんだよ・・・ 「涼太」 「ん?」 「なんで合コン引き受けた?おまえそういうの嫌いじゃなかったっけ?」 「・・・あー、そーなんだけど・・・やっぱ、そろそろ彼女とか欲しいかな、って・・・」 俺に警戒してんのか・・・? 「・・・ほら、青に教えて貰った事、無駄にしたくねえからさ!」 「へぇ・・・、俺が教えたことって、何?」 「え?・・・キスとか・・・」 キッチンに立って、水を飲もうとしているところに近付き顔を寄せると、涼太は後ずさりしながら口ごもる。 「キスとか?」 「・・・その先、とか・・・」 「その先って?」 「さ、触ったりとかっ」 お互いの息がかかるくらい至近距離まで近付くと、涼太が顔を真っ赤にして俯く。 顎を持ち上げ、唇と唇が触れそうになった時、涼太が瞼をぎゅっと閉じて下唇を噛み締める。 「キスされそうになったくらいで、そんな顔するクセに、女抱くとか本気で言ってんの?」 「っ!あ、ああ青のクソドSやろー!オレは女の子とセックスしたいんだよ!もうオレを混乱させんな!」 そう言い放つと、涼太は逃げる様に寝室に駆け込み、バタンッと思いっきりドアを閉める。 はあ~、何やってんだ、俺・・・ 俺が、涼太を、混乱させてる? 「なんとも思ってない、訳じゃねえのか・・・」 たとえ、俺の気持ちの真逆だとしても、涼太が俺の事を考えている。それだけは確かだ。 その事実だけで、俺の心臓は壊れそうなくらいの音をたてていた。

ともだちにシェアしよう!