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第178話 本命くんと愛人さん 1

「あおー、今日買い物行かねぇ?」 昼前になってようやく起きてシャワーを浴びた涼太が、タオルで髪を拭きながらソファに座る。 「いいけど。なんか欲しいもんでもあんの?」 「うん。スニーカー。服はうちの着なきゃダメだけど、靴は他社のやつでもいいから」 「じゃあ俺も買おっかな。涼太とお揃いで」 「やめろよ。お揃いとかきもい」 冷めた眼差しで俺を見る涼太。 ちっ。いつも一緒に行動してるわけじゃねーんだから、ちょっとくらい恋人らしいことしたってバチ当たんねーのに。 部屋を出てエレベーターを待っていると、止まったエレベーターの中から見覚えのある人物が出てきた。 「雄大さん」 「よー涼太。・・・とその本命」 本命・・・。嫌味なんだろうけど、正直気分は悪くない。 「どっか出掛けんの?」 「ちょっと買い物に。雄大さんは?」 「引っ越したばっかだし足りないもの、色々買ってきた」 「そうなんすね。あ!昨日ミートパイご馳走様でした。めっちゃうまかったです」 「ああ。そっか、よかった」 佐々木は、涼太にニコッと笑顔を向ける。 フン、お前が持ってきたミートパイは俺が涼太に口移しで食わせてやったぞ、ざまぁみろ。 「・・・にしても、おまえら仲良いんだな。昼も、・・・夜も」 「夜?」 佐々木の言葉に、涼太は不思議そうな顔をする。 「はは、なんでもないよ。じゃあまたな」 すれ違いざまに俺の方を一瞬見て、佐々木は自分の部屋へと向かっていった。 昨夜の涼太の声を、佐々木は聞いていたんだと確信した。 「夜って・・・夜なんか出会ってねーよな?ボケたか、雄大さん」 涼太は酔っ払っていたせいで、自分がどんな声で抱かれていたかもわかっていない。 ・・・俺が仕向けたってバレたら、蹴られるだけじゃ済まないな・・・、黙っておこう。 結局、涼太とお揃いで買うことを許可してもらえず、同じスニーカーのモデル違いを買って、涼太の好きなハンバーグを食べて帰った。 「あ!やっべぇ!帰りに炭酸買ってくんの忘れてた・・・」 冷蔵庫を開けた涼太は、ガックリと肩を落とす。 「・・・また下まで行くのめんどくせぇ・・・青ぉ・・・」 「ハイハイ!買ってくればいいんだろ!」 こうやって涼太の事を甘やかして、自らパシリになってしまう俺。 でも、可愛いから仕方ない・・・ 「や、こんばんは、本命くん」 マンションのエントランスを出たところで、本日二度目の佐々木に出会ってしまった。 ついてねぇ・・・。イヤ、逆に良かったかも。涼太を行かせなかった俺の判断は正しかった。 「どーも」 軽く会釈して去ろうとする俺を、引き止めるように佐々木は話し出す。 「昨夜は、引越し祝いにあんな声聞かせてくれたのかな?」 「あー、聞こえましたか?すみません。うるさくて寝れなかったですか?ご迷惑でしたね」 俺は白々しく笑顔を作る。 「安物のAVより興奮したよ。涼太の声で危うく勃つところだった」 「そうですか。刺激してしまってすみません」 「でも、あんなにヤダヤダ言わされてんのは可哀想で萎えちゃったな」 俺に負けないくらいの白々しい佐々木の笑顔に、苛立ちが溜まり始める。 「俺だったら、イヤだ、なんて言わせないくらい気持ちよく抱いてやれるのになぁって思ったよ。下手なのかな?青くん?」 いっらぁ~・・・マジでムカつく。 でも、ここで挑発にのる訳にはいかない。 「そう、ですね。でも、イヤだ、はもっと欲しいって意味だと教えてありますから」 「へぇ。じゃあ、最中にそんな事考える余裕あるんだね、涼太に。もっと何も考えられないくらいになってるんだと思ってたよ」 ダメだ。これ以上こいつと話してたら、眼窩前頭皮質が損傷してしまう! 「はは、じゃあ俺急いでるんで失礼します」 「引き止めて悪かったね、じゃ」 佐々木に浅く頭を下げ、コンビニへ向かう。 クッソ腹立つ!ふざけんな佐々木~! イライラを噛み殺しながら、カゴいっぱいに入れた炭酸水を買って部屋へ戻った。 「さんきゅー・・・って何だよ!この量!何本買ってくんだよ、冷蔵庫入りきらねーし」 大量に買ってきた炭酸水に涼太が戸惑っている。 「そんなことより!なあ、俺って下手!?」 「はあ?なに?下手って・・・」 詰め寄る俺に、ますます戸惑った様子の涼太。 「決まってんだろ、セックスだよ。なあ、俺、下手クソ!?」 「し、知らねーよ!だいたい、青以外とヤッた事もねぇオレに聞くな!」 「死んでも俺以外とヤらせるかよ!」 「は?意味わっかんねぇ。エレベーターに頭でも挟まれたか?」 涼太の呆れた声が聞こえたが、俺はそれに答える余裕もないくらい、佐々木に対して腹が立っていた。佐々木の一言一言に、いちいち心を乱されている自分にも。

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