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雨の日の策士
駅のホームを出ると、既に雨は降り出していた。
土砂降りとまではいかないが、本降りと言えるレベルだ。
夏希「マジかよ.....」
げんなりとした顔で深く溜息をつく夏希。
今朝の天気予報では曇りのち雨だと予報がなされていた。しかし夏希がそんなものを観ているはずもない。本気でどうするべきかと、夏希は駅のホーム出入り口に立ち尽くしたまま悩み始めた。
夏希「あ~...遥人に迎えに来てもらうしかねーか?いや、でもあいつに頼むと絶対傘1つしか持ってこねーよな...」
遠い目で独りごちる夏希だったが、意を決したように上着ポケットからスマホを取り出すと遥人へとコールした。
ーーーRRRRR RRRRR
2コール後に電話に出る遥人。
遥人『もしもし夏希?今どこ?』
夏希「あー、駅。つか、おまえ電話出るの早くね?」
多少感心するように笑いを零しながら応答する夏希。
遥人『そりゃあ、ね。待ってたし』
夏希「は?」
遥人『なんでもないよ。それより、すぐ行くから』
夏希「ん、ああ、いつもの南口の方で待ってるから頼む」
通話を終えた数分後、ホームの壁に背を預けスマホゲームをしている夏希の元へと傘を手にした遥人がやってくる。
遥人「夏希、お待たせ!」
かけられた声でようやく遥人が来たことに気づき、顔を上げる夏希。
夏希「え?ああ.....って、」
ふと遥人の手にある1本の傘を見てガックリと項垂れる夏希。
夏希「おまえなぁ...やっぱ1本しか持ってきてないじゃねーかよ」
溜息をつきながら壁から背を離す夏希に笑顔で返す遥人。
遥人「ん?2人で入れば2本も必要ないでしょ?」
夏希「そーだけどよ...じゃなくて、何で大の男二人が1本の傘で肩寄せ合って入る必要があんだよ。おかしいだろ普通に考えて」
ブツクサと文句を垂れながら遥人と並び、出口へと歩き出す。
遥人「天気予報をちゃんと見てない夏希も悪いんだよ?今朝、降水確率80%って言ってたのに」
夏希「は!?おまえ!知ってたならなんで教えてくんねーんだよっ」
遥人「あれ?知らなかった?俺、策士だから」
吠える夏希に悪戯っぽい笑みを返しながら1本の傘を広げる遥人。
「やられた」と呟きながらも広げられた傘へと入る夏希。
雨の中へと肩を寄せ合い消えていく二人の周りでは、雨が優しい音を奏でていた。
ーーーENDーーー
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