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悪夢か呪いか妄想か
眠りだけが僕の生きがいだった。
現実は嫌なことだらけで、死んでしまいたかった。
けれどそんな勇気もなくて、ただ考えるのが嫌で、眠るだけだった。夢の中は安心だった。どんなに冒険したり危険な行動をとっても死にやしない。起きてしまえば夢での行動に文句をいう人もいない。毎日夢のために生きていた。友達のいない退屈な夏休みが始まる。孤独と同棲する一ヶ月。
ある日夢の中に美しい人が現れて僕は恋に落ちた。
今までの夢とは違う、思い通りにいかない夢だった。
夢の続きを見たいと願えば見れる、そんな不思議な夢だった。
夢の中で彼に触れると、心の奥にしまいこんで封を閉じていた欲望が滲み出てくる。あぁ僕はこんな風に誰かに触れてみたかったんだ。受け入れられたかったんだ。夢の中の彼は僕を拒むことなくただ受け入れてくれる。彼に触れる。手を絡める。ぎゅっと握ると細い骨が折れそうだった。彼の青白くて冷たい手と僕の体温が混ざり合って同じになる。自分の手がひんやりと冷えて心地がいい。このまま一つになってしまいたい。蝉の声が僕を呼び戻す。少し恥ずかしくなって手を離す。アイスでも買おうとコンビニによる。パピコ、半分こしてみたかったんだ。
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また夢を見る。今日も彼にあう。ただ会いたかった。触れたかった。彼の体に僕の熱が伝わると、生きている感じがした。これは夢だから、多少乱暴にしても問題ないだろうと実行に移す。彼を僕の部屋に連れ込みベッドに押し倒す。服のボタンを外すとかわいそうなくらい浮き出た肋骨が目立つ。撫でる様にそれに触れると彼はくすぐったそうに笑った。彼に触ると汗か何かペタペタとしている。今日も僕より体温の低い君と一緒の温度になる。全身溶け合ってドロドロになって、ボロの部屋に扇風機が回っているだけでは足りなかった。僕の舌と彼のが口の中で絡み合って境界がわからなくなる。少し酸欠でクラクラする脳はいつもより溶けていた。密着するほど一つの生き物みたいに感じられて脳が幸せになった。凹凸を埋めれば脳が直接性器になった様に、むき出しの神経に触れる様に、脊髄から脳まで気持ちが良かった。互いの汗がもうどちらのものかわからなくなって、二人の体温が一緒になって、まるでナメクジの交尾みたいに一つになった気がした。
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ずっとずっと一緒にいたい。今までこんなにも気の合う人はいなかった。ただ楽しかった。初めての友達で、はじめての恋人だった。僕の全ての欲望を殴りつけても怒らないいいやつだった。彼に僕の温もりを与えることが僕に生きている感じを与えた。
「ねぇ 一緒にゲーセン行こうよ」
初めて彼が喋った。僕は嬉しくなって手を引いて小走りで行った。
その晩、マグロだった彼が小さく声を出した。抑える様に呻く様な声だった。僕のすることに反応が返ってくるのが嬉しくてしつこく身体を弄った。けれどその日はそれ以外に声を出すこともなく終わった。
もっと鳴かせたいのが男の欲望だった。
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それから彼が求めるのものは次第に大きくなり、僕はそれが嬉しくてどう彼を満足させるかばかり考えていた。ずっとずっと彼のことを考えて忙しかった。
永遠に夢に中に居たかった。僕は彼に溺れた。
そう考えて止まないある夜の話だった。
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その夜見た夢の景色は鮮やかで美しかった。
いつもの白黒の夢とは違う、全てが鮮明で、全ての五感が心地よかった。
遠い町の見える小高い丘の花畑に僕らは立っていた。
「ねぇ こっちの世界で一緒に過ごさない?」
「君がそれでいいと言ってくれるなら」
「だけどね ずっと夢から覚めなくなるけど」
「ずっと醒めない夢なんて最高じゃないか」
「ありがとう」
そうやって今までの夢と自覚した夢を失って、代わりに夢に世界が現実世界になった。これが本当だったらいいのに。心からそう思った。
「これで君と一緒にいれるなら ずっとこのせかいでいい」
彼と離れたくないから、現実なんてみたくないから。
ずっとずっとこの世界で、解ける様に混ざる様に。
幸せで死んでしまいそうだ。
「手 繋いでいいかな? 」「抱きしめて欲しいな」
ぎゅうと彼を抱きしめる。あぁいつも通り体温の低い手だ。ふと彼の肋の動かない様子が気になった。手首を握っても脈がなかった。彼の心臓は動いていなかった。
「一生一緒にいてくれる?」
僕は はい と一言振り絞るのが精一杯だった。
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僕はもう目を覚まさない。山積みのカップ麺のゴミとビールの空き缶と僕の体だけがその部屋にあった。
誰も訪れることのない締め切った部屋で蝉の鳴き声と暑さだけが僕の周りにいた。ベッドの上には大きな肉の塊がゴロンと横たわっていた。ただ何かに溺れたかのように汗でベッドを濡らし、苦しそうな表情で眠っていた。動かない肋骨、機能しない内臓、夏の暑さで生ぬるい体だけがそこにあった。
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夢に中の彼はきっと死神で同時に淫夢を好むサキュバスの様だ。僕はそれに魅入られてこの世を去った。もとよりこの世界から出て行きたかったので良かったのかもしれない。
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