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 松原は懐かしさと哀愁を感じつつ、部屋を見渡していく。  少し薄暗い室内は、なかなか見ることのない豆電球が微力な光を放っている。部屋の中心部分にはちゃぶ台が置かれ、その上には盆に入ったお菓子が置かれていた。  冷房がついているのか、部屋の中は少し肌寒い。  僅かながら、松原は拍子抜けした。これではまるで、旅館となんら変わりない。部屋に入ってすぐ、布団が敷かれているものだと思っていたのだ。  部屋を見渡し右手に視線を向けると、両開きの襖が目に止まる。  瞬時に松原の眉間に皺が寄った。その襖の向こう側に、おそらく布団がすでに敷かれているのだろう。見なくても想像がついてしまう。  正面にある閉ざされた障子から漏れる光は、少しピンク色がチラついている。先ほどの大通りをここから見渡せるのかもしれない。  やはりここは、欲望のはけ口とされる場所なのだ。哀愁に浸る場所などではない。  とても開ける気にはなれず、松原は用意されていた座布団の上に腰を下ろす。 「失礼します」  部屋の入り口の襖が静かに開かれ、松原は視線をそちらに向ける。  部屋に入ってきたのはまだ、二十代前半ぐらいの若い男だった。濃紺の正絹着物(しょうけんきもの)にベージュの角帯(かくおび)を締めている。  まさか和装の男が相手をするというのだろうか。松原は中須のとんでもない思い違いに、苛立ちで顔を顰めた。

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