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39 告白

 元揮君の言葉に甘え、俺は帰り支度をして店を出た。  裏口から出て、吸い殻入れの前で一服する。食欲もないし、帰ったらすぐに風呂入って寝ることにしよう。ぼんやりと立ち上っていく煙を見上げ、短くなった煙草を吸い殻入れへ放った。  店の入口側へまわると、誰かが立っている。暗くてシルエットしかわからないし気にもとめずに通り過ぎると声をかけられ少し驚いてしまった。 「悠さん……さっきはごめんなさい」  遠慮がちな小さなその声の主は純平君だった。  もしかしてずっとここで待っていたのか? あれからどのくらいの時間が経過していたのか、俺は頭の中で数を数える。 「手なんか握ったりして、嫌でしたよね……ほんとごめんなさい」  おずおずと俺に近づく純平君は、心底申し訳なさそうに頭を下げていた。 「いいよ。俺もごめん……思い出したくない事だったからつい大きな声出した。純平君は悪くないから。俺が変にイラついてただけ…… 」  俺がそう言うと、少しだけ笑顔を見せてくれた。  何となく店の前での立ち話が嫌で、俺は少しずつ歩き出す。純平君もそんな俺について歩いた。 「俺、ずっと引っかかってて……でも悠さんの気持ち考えてなかった。そりゃ泣いてたんだもん、嫌な事があったんですよね。俺、もういいです。悠さん嫌なこと思い出させちゃってごめんなさい」  謝りたいという純平君の気持ちもわかるけど、今日のところは放っておいて欲しかった。謝罪の言葉より、俺は一人になりたかった。 「もうやめてよ。忘れたいから……もう言わないで」  純平君の気持ちは痛いほど伝わってくるけど、それとは別に思い出したくない傷を抉ってくるのが本当に辛かった。もちろん彼の行為に悪意がないのはわかっている。でもそれを受け止める心の余裕は今の俺には無かった。  話しながら歩いていたら、いつの間にかマンションの前まで来てしまっていた。 「えっと……」  一歩下がったところから純平君が俺を見つめる。  部屋に入りたい。一人になりたい。 「悠さんっ、俺ね……何でだかわかんないんだけど……悠さんの事が気になってしょうがないんだ。一緒にいたい、と言うか……なんというか……」 「………… 」 「あ! すみません……気持ち悪い事言ってますよね。でも……ほっとけないんだ。俺……俺」  純平君が言わんとしていることがわかってしまった。それ以上言葉が溢れてしまう前に俺は慌ててそれを遮る。 「純平君? それは気のせいだよ」  純平君の口から溢れそうになったその言葉を聞くのが怖かった。 「……気のせい?」 「そう、気のせいだ」  少しづつ近付いてくる純平君を見ることができない。  ……動揺するな。  いつの間にか俺の目の前まで来ていた純平君に俺は腕を掴まれた。思いの外力強いその手に俺は慌てて身を捩るも、また引き寄せられてしまった。 「気のせいなんかじゃない……俺は悠さんの事、この気持ちは……きっと好きなんだ」

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