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子と親

「あの」  事件のあと、何度めかの往診。丞の「気分転換にピクニックでもいかがですか?」という一言で避難しているホテルから近い緑地公園にきた。 「はい、どうかしました?」  子供らしい笑い声が響く。 大きな木が葉をゆらし、座る子供たちと道化(北洛)を日射しからほどよく守ってくれる。 「……なんで、公園に」 「気分転換です。ずっとホテルにいては気分もよどんでしまうでしょう」  朗らかな丞に事態の重さがわかっていないのではないかと思ってしまう。何度か殺人事件に廻り合っているというには纏う空気が柔らかく、危機感が感じられない。 「わたしは、怖いです。あんなことがあって外に出るのも怖い。息子になにかあったらと思うと心臓が止まってしまいそうなんです」  本音を云えば、一刻も早くホテルにもどりたい。 息子に、叶になにかあったら狂ってしまう自覚がある詩乃は青ざめた顔で丞を見つめた。 「そうですね、あんなことをしでかす犯人は確かに恐い。でもずっと部屋にいても恐さは変わらないのではないでしょうか」  穏やかな瞳が恐怖で刺々する心と言葉を受け入れてあたためる。 「日光にあたる時間が少ないとネガティブになりやすくなります。日光浴ってすごいんですよ、ビタミンを体内で作るお手伝いをしてくれたり、子供は日光にあたることで健康になるんです。当たりすぎも注意ですが、できれば15分は日光浴をしたほうがいいそうです」  鈴が転がるような笑い声が聞こえる。ホテルでは聞こえない声。子供らしい声にやっと落ち着いた気がした。 「そうですね……すこしだけ、落ち着いた気がします」 「あまり気を張りすぎると倒れてしまいますからね」  おかあさん!と呼ばれる方を見れば叶が花冠を作っていた。 「まぁ、すごいきれいね」 「司紋さんすごいんだ、花冠も、マジックも、すごいんだよ」  興奮している叶を花冠ごと抱き締める。 子供らしく楽しんでいることも、あの恐怖を一時でも忘れられる時間があることも、「今」がとても大切に思えた。

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