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果たされた約束

 犬のアレクと人のアレク、どちらも同じ一つの存在なのだが、まるで二人、いや、一人と一匹を亡くしたように思えて、二倍悲しかった。    アレクがいなくなって気落ちしている空哉を見兼ねて、兄も両親もまた新たにペットを飼おうかと提案したが、とてもそんな気になれなくて断った。アレクの代わりなど、誰にもできない。それは人も動物も同じだった。  日々は流れるように過ぎ去り、気が付けば社会人になっていた。アレクがいなくなって十年程が経ち、周りは既婚者が増えてきている。しかし空哉は、彼女も作らずに相変わらず独り身だった。  自然とそう思える人もいなかったのもあるが、必ずアレクと再会できると信じて待ち続けたためだ。何度も挫けそうになったこともある。それでも諦めることはできずに、十年目の今日、公園で一人酒盛りしながら、温かい日差しの元でアレクの命日を過ごしていた。 「アレク、お前に会いたい……」  酒のせいもあるかもしれないが、思わずぽろりと涙を滲ませた時。ベンチに腰掛けた空哉の元へ、一人の見知らぬ少年が近付いて来た。小学生ぐらいだろうか。きりっと鋭い目つきをしていて、凛々しいせいか、幼さは感じない。    そこに懐かしさを覚えて、予感を胸に声をかけた。 「君は……」 「泣かないで。約束を果たしに来たよ」 「っ……アレク……」  感極まって涙を溢し、言葉に詰まる空哉の頭を、まだ幼さの残る手のひらが優しく撫でた。

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