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第28話

「―ボクはどっちでもいいけど?」 黙っている俺にしびれをきらしたのか兄貴はもう1度、そう言うと優紀の方に歩き始める。 「…それとも、ボクの使い古しはいらないか?…まあ、お前がいらないって言うのなら、しかたがないからボクが使って―」 倒れている優紀に、兄貴の手が伸びて―。 「…駄目だ!!」 考えるより先に…兄貴の手が優紀に触れる前に、俺の身体が…口が―動いていた。 (―もう、どうでもいい) これが罠だろうが…なんだろうが…。 (兄貴に…優紀は、渡さない!!) 兄貴の手が優紀に触れる前に、俺は優紀の身体を抱き締めた。 「…駄目だ」 (―兄貴には渡さない) 強い意思を持って…俺は初めて―兄貴の顔を正面から睨み付けた。 兄貴に奪われないよう優紀を強く抱き締めながら―。 そんな俺を見下ろした兄貴は、もう用はないとばかりに俺達から視線を外し…踵を返す。 「…あ…兄…」 思わず声をかけてしまった…俺の呼び掛けにも足を止める事なく、兄貴は部屋から出て行く。 男性二人を従えて部屋を出て行く兄貴の後ろ姿を俺はただ、黙って見ていた。 ー優紀を抱き締めたままー。 (…もう二度と兄貴に会う事はないだろう…) そう、思いながら…。

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