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【序】-1
……最悪。
また終電だ。
今日もミスを連発。
(……リーマンに向いてないのかも)
眠い。
せっかく間に合った終電なのに。
ここで眠ったら乗り越してしまう。
瞼が重い。目を瞑ったら、終点まで目覚めない。たぶん……
寝てはいけない。
頭は寝るなと警鐘を鳴らしている。
でも……体が……
瞼が下がる。閉じていく。
カクンッ
あっ、いま一瞬眠ってしまった。
コクン……
(ダメ、もう起きられない)
コツコツコツ……
雨音が窓ガラスをノックする。
電車に揺られて、ささめく雨音が眠りを誘 う。
………『おやすみ』
だれ?
ガターン、ゴトーン
コツコツコツコツ
電車の揺れる音
雨の囁き
車両には俺しかいない筈だけど……
あたたかい。
髪を梳いた指
俺、肩に寄りかかってる。
だれ?
重くて瞼が開かないよ……
ガタン、ゴトーン
電車のリズムに揺られて、意識だけふわふわ
浮遊する。
肩に頭を乗せて
ぎゅ、って
手……握ってる。
結ばれた手と手、なんだか安心する。
(おやすみ)
瞼を閉じたまま、耳元で囁かれた『おやすみ』の声に「おやすみ」って返したんだ。
心の中。
『おやすみ、悠 』
………チュッ
唇があたたかい。
これってキス?
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