3 / 8

第3話

程なく雪弥の父は道場に戻り皆に稽古をつけられるようになったが、やはり以前ほどの気力はないようだった。 「雪弥さまと正之殿がご結婚と云うのは本当なのか?」 道場内では既に噂が広まっている 「ふぅ…」雪弥は小さく溜息をもらすとちらりと満と正之の方に目を向けた 一見 普段通り…だが言葉を交える事も無く黙々と稽古に励んでいる 正之が雪弥との結婚話を否定しないと云う事は当然父の話を承諾したのだろう 自分は兄のように思っていたが正之は違ったのだろう… 今は自分の身体の変化も薬で抑えているがいつまでも誤魔化せる訳ではない 子供の頃のように無邪気にまとわりつく事は出来ない 「僕はどうしたら…」また呟きが小さく漏れる だが結局は自分では決められないのだ もどかしい日々の中 事態が動く 「満っ!俺と勝負をしろっ!」 僕自身が答えをはぐらかしている事に業を煮やし、正之が口火を切った。 満に勝てれば事が進む…と言った短慮だろう 「分かった…」満は静かに応える わざと負けるつもりだろうか? 雪弥は不安だった… ……結果は一目瞭然。 満は手加減する事なく正之を叩き伏した 「こんな事をしなくても雪弥はいずれ貴方のものだ」 満は苛立ちを抑えて言い放つ 「剣術の腕が上ならば俺にも可能性はあると ずっと思っていた…」 「だが師匠は剣術の腕より跡取りは血筋を選んだのだ」 その時 床に拳を打ち付ける音が響く 「だが 雪弥は俺を見ていないっ!」 「全てに秀でたお前には分からない…成り行きで雪弥を手に入れても意味はないんだ」 今まで本心を明かさなかった正之の言葉が切なかった。 いたたまれず雪弥は道場をあとにした しかし自分のあやふやな態度が事態を悪化させた もっと前に自分の気持ちをハッキリさせておけば…と 道場をあとにしたしばらく後道場生が母屋に駆け込んで来る 「大変です!雪弥さま」 説明もなくただ早くと促され母と二人で道場に駆けつけた 周りに居並ぶ道場生達を押し退け中に入ると、そこにいたのは立ち尽くす正之…そして剣で斬られた父だった 「満…殿は?」嫌な予感がする 皆に尋ねても答えはない 「正之殿 …これはいったい…?」 父の息はとうに無い まるで悪夢のような光景に涙が溢れた

ともだちにシェアしよう!