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四空間目⑫
「…あ」
突然のことに、俺も神田さんも動きを止める。
それもそのはずだ。ここ一ヶ月以上この部屋で暮らしてきたけれど、今まで誰も部屋に足を踏み入れて来たことはなかったのだから。
部屋へ進入してきた人物は、玄関から迷いもなく、一直線でこちらに向かって来た。
『一時間経過してもお二人の様子が伺えなかったので、規則により参りました』
その人物は俺が待ちに待っていた存在だった。
軽やかなノックを三回繰り返した後に、聞こえてきた中々のハスキーボイスに男性だと確認。女性ではないことに、俺は更にガッツポーズ。こんな姿を女性に見られたら、羞恥に耐え切れず、俺はこの場で舌を噛み千切って死ぬところだった。その際には、ケツ穴も極限まで締め付けて、神田さんのペニスも圧し折ってやるつもりだったけれど。
だが、助けだ…、助けがやって来た!
救世主だ、…ああ、俺のメシア様!
「あ、あの…っ、」
処女を奪われる前に助けられていたら、扉の向こう側の顔すら分からない男の人に、処女の代わりに、うっかり恋心を奪われていたことだろう。
だがもう我侭は言うまい。彼は俺を助けに来てくれたのだから。セカンドバージンを奪われる前に、肉便所にされて堕落させられる前に、彼が来てくれて本当に良かった。
「た…すけ、」
今なら限界まで腕を伸ばせば届く距離。
助けが向こう側に居る今、躊躇う必要も何もない。
しかし。
右腕を伸ばして、指先が扉に触れた瞬間…。
「っ、んんんんんぅ!?」
……それは前置きもなくやってきた。
「あ…、ひ、?ぁ、うあ、ァ?」
俺がもう助かったのだと、気を緩めて身体の力を抜いていたのをいいことに、神田さんは再び俺の腸内にぺニスを根元までぶち込んできやがった。
「なに、…し、て…っ、」
「…声出していいのか?何してるかバレちまうぜ?」
「う、っ…ん、ァ、え」
神田さんは器用に俺の口をその大きな掌で塞ぎながらも、緩やかに腰を動かして抜き挿しを行っている。扉の向こう側では『藤島様?如何なされました?』と、男の人の極めて冷静な声が聞こえてきて、身体は熱いのに、頭だけが冷めていくのが分かった。
「このまま見られてもいいのかよ。お前も好きものだな」
まあ、お前にそんな趣味があるならば、俺は別にいいけど。と、今の俺とは全くの真逆で、楽しそうに喉で笑う神田さんの表情はこちらから見えないけれど、きっと悪魔のような顔で笑っているのだろう。
「、…ぁ、…ふ、ふ、ん、ふぅ」
冷静に自分の姿を思い返す。
全裸の上、主に下腹部は精液塗れ。涎と涙の痕でグチャグチャになっている顔。それに男のくせに、同じ男にケツ穴をほじくられていて。レイプされているのに、未だに汁を垂れ流しながら勃起している俺の男性器。
助けに来たのが男だろうと、どう考えても、人に見られていい姿ではなかった…。
「っ、ぁ、…ン、ぅ」
それにこの扉を開けられてでもしてみろ。
メシア様には俺が男に犯されている所を生で見られる上に、下手したら監視カメラの向こう側に居る人達にすらも、この姿を見られてしまうかもしれない。そうしたらそれは消去しない限り、データとして一生残る。
…というか、よくよく思い出してみれば、その位置にカメラが設置されていたような。
「(俺は何と馬鹿で浅はかな男だろう…っ)」
助けなんて期待している場合じゃなかった。
頭だけ妙に冷静になった今ならばそれはすぐに分かる。
パチュンパチュンと音を立てながら好き勝手に腰を振る、神田さんの笑い声が耳元で聞こえた気がした。
『藤島様?神田様?』
ああ、メシア様。
俺は救いの手を伸ばしたいのに、後ろの悪魔がそれを邪魔します。
『開けてもよろしいでしょうか?』
「っ、ダメです…!」
自分の脚腰のはずなのに、産まれたての小鹿のようにプルプルと震えていうことを聞いてくれない身体に鞭を打って、四つん這いの体勢から何とか立ち上がる。それに従って、俺の中に挿入している神田さんも立ち上がる。いわゆる、立ちバックの体勢の出来上がりだ。
崩れそうになる俺の腰を支える優しさとかいらないんで、一刻も早く俺を解放してくれないですかねぇ。
「、へ、いき…っ、ですから…、」
何故立ち上がったかというと、それは無理やり扉を開けられないため。
扉に両手を付き、上半身の体重をそこに全て預ける。そうすればいくら鍵が掛けられないこの扉だとしても、向こう側からは中々開けられないだろう。
自分の体重が他の人よりも重いことに、今までこれほどまで役に立ったことはあるまい。
むしろ、これが最後で最大の役の立ちどころだ。活用しなくてどうする。
「っ、あ、…ちょっと、二人で、…ンぅ、お風呂入っている、だけです、からぁ」
『…お二人で?』
「あはは、ッ、…ん、おれたち、仲良しだから、」
不審そうに訊ねられ、慌てて笑って誤魔化すのだが、自分で言っていても無理があるのが分かる。
というか、人が折角この場をやり過ごそうと必死に誤魔化しているというのに、何故神田さんは、さも当たり前のように腰を動かしてくるんだ。漏れてしまう変な声を押し殺そうと頑張る度に、言葉の合間合間が不自然になってしまう。
「ッ、ふ…、ァ、あっ」
硬い亀頭で腸壁をゴリゴリされてしまい、強い刺激に堪らず喉を反らして喘ぐ。
その声がメシア様に聞こえているのではないかと思うと、気が気じゃない。扉を開けられないように、額と左肩を押し当ててから、抗議のため後ろを振り返って神田さんを睨み付ける。
「…ば、か、じゃないですか、もぉ…死んで、くださぃッ、」
神田さんだけにしか聞こえないように、小声での必死な抗議だ。
あんただって「悲報!神田皇紀、デブ専の男色家だった!」なんて不本意で恥かしい記事を一面に飾られたくないだろう。
「手で、抜いてあげますから、…早く、やめ、て」
「…声を我慢して睨むお前も泣かし甲斐があるな」
…駄目だ。
この人、俺の話を聞いちゃいない。
「あ、あの…っ」
後ろで好き勝手にパコパコ腰を振る神田さんに説得するのはもう無理だ。こうなったら仕方がない。非常に不本意な事だが、潔く諦めてしまおう。
どうせ一度は掘られて、中出しまでされているんだ。一回も、二回も大差はないと腹を括ってしまおう。
それにいくらなんでもあと一回射精すれば満足するか、ふと我に返って俺を掘ったことを後悔するだろう。
神田さんにだって、賢者モードはあるだろうし。
そうとなったら、今急いで説得するのは扉の向こう側に居るメシア様だ。
「それで、…まだ…ッ、ん、問題、でも?」
遠回しに「もう用がないのなら去ってください」と伝えてみる。
『一応お二人の無事な様子を確認しないといけませんので』
「……え、?」
『申し訳御座いません。何分規則でして。』
しかし、掠れた渋いイケメンボイスで、本当に申し訳なさそうに言われたら、これ以上こちらからは強く言えない。それに、彼は何一つ悪くないのだから。
規則違反をしてしまっている俺達が十割悪い。というか、神田さんが百パーセント悪い。
「は、ふ…っ、あ、…えっと、」
『少しだけ確認させて頂けますか?』
服を着てからでも大丈夫ですので、と優しく言ってくれるメシア様。
服を着ていないどころか、雄同士で交尾中です。とは口が裂けても言えない。
「っ、うー…、か、神田さん」
この原因を作り出している本人なのだが、俺は縋る思いで神田さんに懇願した。
眉を下げて、瞳に雫をウルウルと溜めているその姿は、チワワのように可愛いだろ。だから早く解放してください、と口には出さずに目で訴える。
「あ、ゃ…ッ、!ん、ァッ」
しかし俺のそんなチワワ攻撃ならぬ、小ブタ攻撃は、神田さんには通用しなかった。
それどころか、俺のそんな様子を見て、更に打ち付けが激しくなった。レロォ…って、熱い舌で背筋も舐められて、本格的に色々と危うい。
「ッ、んぅ、ひ、ッ、あ」
…っ、ばかぁ…。
声漏れちゃうって。
下唇を噛んで漏れる声を必死に殺すのだが、それよりもパンパンっていう音が煩くて、そっちの音でセックスしている事に気付かれそうで怖い。
「あ、…ん、ひ、はぁ、ん」
…どうしよう。
このままだと、不審に思ったメシア様が中の様子を覗きに掛かるのではないだろうか。
そう不安で頭の中がいっぱいになっていると。
「…助けてやろうか?」
……再び悪魔が俺の耳元で囁いてきた。
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