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九空間目⑦
「……いつになったら分かるんだよ」
何度もページを更新するものの一向に見れない。ベッドで丸くなったまま数十分間もの間、ただ同じところをタップするだけの機械に成り代わっていると、……突然その時はやってきた。
「…………!」
長いことアクセスエラーを吐き出して続けていたページが、望んでいたマイページを開いてくれたのだ。
当たり前のことだが前触れもなく急にお目当てのページに辿り着いたから、もう結果を見る心構えすらしていなかった。あんなに緊張をしていたというのに、なんとも呆気なく俺は結果を見ることになったのだ。
「……と、当選してる……」
パチパチと何度も瞬きを繰り返して見返すものの、やはりマイページのチケット当選結果には、間違いなく“当選”と書かれていた。
「当選してる!!」
あんなにも高い倍率をくぐり抜けて俺は見事に当選したのだ。きっと俺は今回で一生分の運を使い果たしてしまっただろう。だが、もうこれだけで十分過ぎる。勇気を出して応募した甲斐があった。
これで堂々と神田さんに会えることができるんだ。
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「……ふー、寒っ」
サイン会当日。神田さんと一緒に過ごした日も最後のお別れの日も、焼けるような暑さが続いていたけれど、今では真逆でめちゃくちゃ寒い。クリスマスを控える12月の初旬ため当たり前といえば当たり前なのだが、いくらなんでも寒過ぎる。俺は昼間のイルミネーションを横目に見ながら、コートのポケットに手を突っ込んで足早に会場の中へと入って行った。
「人多い……」
俺も早めに着いたはずなのに、もう大勢の人がエントランスで綺麗に列を並んでいるのが見えた。やはり比較的に女の人が多いようだ。そんな中に俺のような太った男が並ぶのはとても恥ずかしいのだが、俺だってあの厳しい倍率をくぐり抜けた勝者なのだ。堂々と列に並ばせてもらおう。
「(……緊張する)」
先程まではやっと神田さんに会えるということにテンションが上がっていたのだが、いざもうすぐ会えるとなると緊張してしまう。神田さんと対面したら何を話そうか、あんなにも昨日シミュ―レーションしたのに、緊張のあまり話す内容がぶっ飛んでしまいそうだ。
「(あの扉の先に神田さんが居る……)」
ずっと。ずっと会いたいと思ってた。
忘れない日なんて一度もなかった。特にサイン会で会えると分かってからは、本人からしてみれば気持ち悪いかもしれないが、夜な夜な神田さんのことを思って、彼にされたことを思い出して、一人で身体を慰めてたくらいだ。
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