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十空間目①

季節のせいもあるだろうが、あまり人が居ることはないけれど割と広い公園の前で、俺は神田さんの迎えを今か今かとソワソワとしながら待つ。 子供の頃よく帝と一緒に遊んでいた公園で、まさか超有名人の神田さんのことを待つ日が来るなんて誰が想像付いただろうか。バイト中の帝には一応出掛けるから帰りが遅くなるかもしれないということを伝えておいたので多分大丈夫だとは思うのだが、それでも少し心配だ。 「……というか、制服のまま家を飛び出して来ちゃったけど大丈夫かな?」 冷静な判断ができていなかったため着替えずに制服のまま来てしまったのだが、久し振りに会えるのだからもう少しまともな恰好をしてきた方が良かったかもしれない。それに一週間後にはクリスマスを控えているくらいだから、このままの恰好だと結構寒い。だけど今更戻って着替える時間はないだろう。それに行き違いになって待たせてしまうのは嫌だ。そう思った俺は、冷たくなった両手を擦らせて息を吹きかける。 そんな時だった。 詳しくないため車種は分からないのだが、見るからに高級そうな黒い車が俺の目の前に止まった。間違いなく乗っているのは神田さんだろう。 俺はドキドキとしながら少しだけ歩み寄れば……、 「……わっ!?」 反対側の扉から出てきた人物に前触れもなく急に抱き締められた。 「有希、」 「か、神田さん……」 ……その人物は紛れもなく神田さんで。 俺は久し振りの神田さんの匂いと体温を堪能するように、自らも彼の背中に腕を回して抱き着いたのだった。 「(……またこうして触れ合えるなんて、思ってもいなかった)」 あのアルバイトが終わった夏以降、こんなことができたのなんて夢や妄想の中くらいでしかなかったのに、それが今現実で叶っているのだ。出会いは最低最悪で何度も理不尽な目に遭ったけれど、それでも彼と接していく内に色々なことに気付かされて、愛情に飢えていた俺は見事に心を奪われたのだ。家の中や学校生活では味わえないような、非日常なことばかりだったけれど、間違いなく俺の人生で最も良い経験になっていた。 「……ずっと、会いたかったです」 「……俺もだ」 「ぐすっ、うっ」 「ふっ、泣き虫」 「……仕方ないじゃないですか」 だってまさか本当にまたこうして再会できるなんて思ってもいなかったのだ。何度も何度もこの無謀な恋心を諦めようと奮闘しながらも、それでも諦めきれずに、毎日ずっと神田さんのことを想い続けてきたんだよ。それほど俺はあんなたのことが好きなんだよ。そう伝えらればいいけれど、悲しいことに俺にはそんな度胸はなく、俺はただ泣きながら神田さんの胸板に顔を埋めた。

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