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第3話 解決策

「キリト…どうすれば僕はこのお菓子が食べれるのかな」 「俺がこの世界に行ってこのお菓子を手に入れてくれば問題が解決するだろう」 「でも…いつもそうやって他の世界に飛んでくれるでしょう?僕のために…僕が外に出れないから遠くの世界まで行かなくちゃいけない」 「大切なお前のためだったらどこへでも行くさ」 「分かってる。そうだけど、でも…キリトが外の世界を旅している間、僕は待っていることしかできない役立たずなんだっ!」 「アイラ!」  床に突っ伏したアイラの動きに合わせて周りのスノードームがコロコロと転がり、カチカチとぶつかり合って小さな音をたてる。  グズグズと音を立て涙を流す恋人に心が締め付けられキリトは眉間にしわを寄せた。 ――出来ることなら一緒に世界を旅したかった。  スノードームを見つめ緑の瞳を輝かせるアイリのために、魔法を使いお菓子を手に入れるために世界を旅するたびにこの瞬間を愛する人と共有できればどれだけ良いことだろうと思った。  そう思うたびに、10年前に助けた幼いアイラの姿が脳裏をちらついた。同年代の子供より小柄で色白だったアイラはドラゴンに襲われてから数年間、窓の外を見つめるだけでフルフルと震えるほど外の世界を恐れていたのだ。  一緒に旅ができればなんて夢の夢のような望みが募れば募るほど、叶うことなど一生ないだろうと諦めていった。  だからこそ、「一緒に外に行かないか?」なんて何年も聞いていなかった質問であったし、それを聞くことで辛そうな顔をする恋人を見ることになるのであれば、このままこの城の中で二人で過ごしていたほうが何百倍もマシだと思っていた。 「た、例えばの話だけど…」 「ん?」  泣いていたアイラが途切れ途切れに呟き始めた。サラサラと流れる恋人の髪を撫でるとキリトはすぐ横に腰を下ろした。 「例えば、僕が一緒に世界を旅するとしたら…」 「異世界に行くということは、外に出るということだぞ」 「うん…そのくらい僕にだってわかるよ。でも、もし僕にそれが出来たら、この美味しそうなパイだって、ポテトチップスだって、他のお菓子だってその世界で食べれるようになるってことだよね?」 「そうだな。その世界の空気に触れて、風を感じて、太陽に照らされてティータイムを楽しめるようになるな」 「外に出ればいいんだよね」 「え?」 「外に出ればスノードームを通さなくても世界が見れるようになるんだよね」 「そう言うのは簡単だけど、それができないからスノードームを作ったんだ。外を恐れるお前が外の世界を見れるようにって」 「分かってるよ。僕はキリトが作ってくれたスノードームが大好きだし、これのおかげで世界を見れてる」 「アイラ…」  キリトは自分の胸に預けられた恋人の温もりを感じ、目の前の小さな肩を撫でた。 「でも…それだけじゃダメだって思うんだ、僕」 「どういうことだ?」 「一生外を怖がって城の中にいたら僕はつまらない人生を送ることになってしまう」 「だが…」 「だから勇気を出してキリトと一緒に世界を旅したい…かなって心の隅っこで思うんだ」  オレンジ色の炎が暖炉で踊る。  今言われた言葉を頭の中で復唱するキリトの耳に薪がコトリと音を立て崩れる音が届いた。 「一緒にこの世界に行ってみるか?もし怖くなったらすぐに帰ってきてもいい。もし何かがあったら俺がお前を守る。何があっても全ての力を使って守るから」 「うん!」 「そうとなったらすぐにでも出発するか?」 「今?」 「ああ、出発まで時間が開くほど怖さが募るかもしれない。思い立ったが吉日だ」 「わ、分かった!僕、キリトと行く!」

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