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時を刻む少年

 「んっ、待って、ねぇやめてって」  自分の腰から背中をゆったりと這う手にロージュは焦っていた。服を通して感じる体温は心を溶かしてしまうほど心地よい。  時々首に与えられる唇の感覚は顔に火をつけてしまいそうになるほど気持ちが良かった。  それでも止めてもらわないと。  いつもは規則正しい鳴る鼓動がトクンと高鳴り始めるのをロージュは感じた。  「アントン、ダメ、僕っ!このままだと時計の針がっ」  泣きそうな声をあげた恋人の頬を両手で包むとアントンは真っ赤に腫れた唇に口づけをした。  透き通るほど白い華奢な体は自分が与えた刺激でほんのりと色づいている。でも、これ以上この美味しそうな少年の体を堪能すると世界が狂う問題が起きてしまう。  トクトクトクと規則正しい音を立てるのはロージュの心臓でありこの星の「時計の針」であった。  ロージュの心臓が高鳴らない限り、ここに住む誰もがいつも通りの生活を送れる。  数ヶ月前にこの星では、海が荒ぶり、風が大地を震わせ、雨が作物を洗い流すような大災害が起きた。  その日はアントンの誕生日だった。  数日前からロージュはプレゼントを準備し、平常心を保ちながら恋人が喜ぶ姿を想像して期待に心を膨らませた。  そこまでは時計の針も星もいつも通り規則正しくまわっていたのだ。  「ロージュ!」  大きなプレゼントを抱え自分を迎え入れた恋人の姿にアントンは歯止めをかけられなかった。  擦り合わされる舌、混ざり合う唾液、高まる体温、全てに興奮し、「時」の存在を忘れ二人は交ざり合い、重なり合い、一つになった。  幸福感と満足感の狭間で気だるさを感じ始めた頃、アントンは外の様子がおかしいことに気付く。  家の外に生えていた木が根こそぎ姿を消している。  まだ昼間なはずなのに外は暗く、大粒の雨が窓を打ち付けていた。  「こ、こんなことに…!僕のせいだ。僕が時間を歪めちゃったから…!」  その日からロージュは今まで以上に平常心を保つように努めた。恋人のアントンのことは大好きだし、正直なところもっとお互いを愛し合いたい。  それでも「時計の針」として産まれてしまった自分には責任がある。その責任を捨て思うままにアントンと交じり合えば、この星が終わってしまうような災害が起きることも経験から理解していた。  「ロージュ、分かったよ。これ以上はやらない」  「ん…ありがと」  「お前のためなら何だって」  壁に掛けられた時計の針がチクチクと規則正しい音を立てる。 ロージュの心臓の音と混じり合い部屋中に心地よいユニゾンが響き渡った。  今日もこの星は平和に回っていく。

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