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第1話

 七月二十八日、武装探偵社。 「おい敦」 「はい国木田さん」 「俺は今白昼夢でも見ているのか?」 「いいえ、現実です」  国木田独歩は目の前にある現実を受け入れられず、中島敦に問い掛けた。  其れも其の筈、武装探偵社の重鎮である江戸川乱歩の膝に太宰治が座っている状況を目の当たりにしてしまえば、夢と思いたくても仕方が無い。敦は既に現実逃避済みだった。 「太宰、ポテチ食べたい」 「善いですよ、では『あーん』して下さい」 「あーん……」  乱歩の両脚の間に横向きで座る太宰は、乱歩の要請により菓子の袋から一枚を取り出し乱歩の口許に運ぶ。 「だ~ざ~い~、何をしとるんじゃあぁあああ!!」  其の甘い空間に耐え切れず国木田が吼える。太宰はおろか乱歩すらも声の主へきょとんと姿勢を向ける。然し其れも直ぐに右から左へと流され乱歩は口の中の菓子を咀嚼すると携帯遊戯機で遊び始める。太宰が少し身を寄せて画面を覗き込んでも乱歩は特に気にしていないようだった。 「……おい、太ざ」 「国木田君、今日が何の日か知っているのかい?」  言葉を遮る太宰に国木田は一瞬躊躇いを見せるが、直ぐに思い付いた内容を手帳を開き確認する。 「国木田さん、今日は乱歩さんのお誕生日です……」  空気の読めない男扱いをされている国木田へ敦が救いの手を差し出す。 「……で?」  今日が乱歩の誕生日である事と、太宰が乱歩の膝の上に乗る事に如何様な接点が有るのかと、結論を急かすように人差し指で眼鏡を上げる。 「今日誕生日の乱歩さんからのご要望なのだよ」 「貴様を膝に乗せたいと?」 「うん」 「太宰、ポッキー」 「あ、はい」  国木田からの詰問を我関せずと乱歩は口に菓子を運ばせ乍ら手許の電子遊戯に興じる。 「……貴様は其れで善いのか?」 「乱歩さんが望むのなら私の尻の一つ位訳無いさ」 「ら、乱歩さんは……」 「国木田ジュース入れて」 「あっ、はい、ただいま!」  乱歩に指示され国木田が杯に飲料を注ぎ入れる為に近寄ると、太宰は乱歩の首に両腕を巻き付け、乱歩は太宰の腰を撫でていた。 「乱歩さん……!?」  国木田の眼鏡を割り破り目玉が飛び出るかと思う程に凝視した。国木田以外の探偵社員も其の光景に度肝を抜かれるが、扶けを求めて国木田が振り返ると皆一様に視線を反らす。 「……き、今日一日だけ……ですよね乱歩さん?」 「まーね、今日は僕が王様だから」  太宰が支える杯に麦藁を挿し飲料を飲み乍ら乱歩はじっと太宰の顔に視線を向けて首を傾げる。 「来年は猫耳でも付けてみる?」 「……厭、其れは如何かと思いますけど」

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