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…ありがとう

握っていた手をそっと開けば、内側に『sky&rain』と掘られた、シルバーのペアリング。 眠っている間もずっと、握り締めていたらしい。 その指輪が、降り注ぐ太陽の光に溶け込み、不思議と白金色に輝いて見える。 「……実雨」 黙って僕の話を聞いていた樹さんが、静かに口を開く。 その声にはっと我に返り、指輪から樹さんへと視線を移す。 「僕も、思っている事を、言ってもいい?」 「………え、うん」 改まったその口調に緊張が走る。 樹さんを見つめたまま背筋をしゃんと伸ばし、膝に手を置いてきちんと座り直す。 その畏まった姿勢に、樹さんがふっと吹き出し、顔を綻ばせた。 「昨日電話で、実雨が言ってた事なんだけどね」 「……」 「その指輪、無理に手放さなくてもいいんじゃないかな」 穏やかで、優しい口調。 その笑顔に、本音を隠したようなものは感じられない。 だからこそ──予想に反したその言葉に、驚きを隠せなかった。 「………え、でも……」 本当は、持っていたい。 大空が残してくれた、唯一のものだから。 ──だけど。 大空のお墓参りに行く日を決めた時からずっと、これは大空に返さなくちゃって考えてた。 大空に対しての恋愛感情が薄れ、もう思い出に変わってしまったとしても……これを持っていたら、きっと樹さんを嫌な気持ちにさせてしまうからって。 「もし、実雨が持っていたいなら……だけど」 「……」 「実雨?」 「………樹さんは、いいの……? 僕がこの指輪を持っていたら、不安になったり、嫌な気持ちになったりしない……?」 思っている事を、ちゃんと言葉にして伝える。 「うん。……本音を言えば、良くは思わないよ。 だけど、実雨の心は、確かに僕の中にあるのに……そこまで強制したくはないと思ってる」 「……」 ……樹さん…… 温かくて、大きなもので身体と心を包まれたような安心感と……居心地の良さ。 僕の事を、ちゃんと解ってくれている事が、何よりも嬉しい。 「それじゃ、……持ってても、いい?」 「うん」 答えながら、樹さんが微笑んでくれる。 その笑顔が、降り注ぐ柔らかな光に溶け込み……一層僕の心を掴んで離さない。 「………ありがとう、樹さん」

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