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Ⅷ
「珈琲いる?」
自分のマグカップをセットして、後ろにいる佐竹君に聞く。
「頂きます!」
元気に笑う彼の笑顔はやはり可愛い。
「小野井さんは珈琲はブラック派なんですね」
佐竹君の分の珈琲を淹れている間、自分の珈琲に砂糖もミルクも何も入れずに飲む俺の姿を見て言う。
「うん。目が覚めるし、なんせ会社の珈琲は美味しいからね」
少し笑ってみせると、佐竹君の表情が止まる。
(何か、変な事言ったかな…?)
ほんの少しの時間、珈琲がカップに注がれる音だけが室内に流れる。
「大丈夫?珈琲飲めなかった?」
「あっ、いえ!大丈夫です!ありがとうございます!」
まるで時間が止まっていたかのようにボーッとしていた佐竹君を心配しながら、淹れ終わったカップを渡す。彼は焦っている様子でセルフに置いてある砂糖とミルクを淹れたての珈琲に注いだ。
「僕、珈琲は砂糖とミルク入れないと飲めないんですよね。小野井さんは大人ですね。憧れます」
(なぜだか少し顔が赤くなっている…?)
不思議に思いながらも、ブラックを飲めないなんて意外でまた可愛いなと新しい一面の彼を見れて嬉しくなった。
「よし、じゃあ戻って今日の仕事の確認しようか」
「はい!」
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その日から出社すると佐竹君が一番に俺へ挨拶してくれて、デスクの上には俺のコップが置いていた。中には佐竹君が用意してくれていたらしい淹れたてのブラック珈琲が入っていた。
そして二人で珈琲を飲みつつ朝からスケジュール管理、仕事の確認をする事が日課になっていった。
今までは一人で黙々と仕事をしている時間が、今は二人だけで過ごせる大切な30分に変わっていって俺にとって変哲の無い日常が、彼によって少しずつ色付いた日々に塗られていく。
毎日歩く会社の近くの桜並木が満開になるまで、もう少し。
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