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君と僕の距離

「イリヤさんっ助けて!」 「そこで待ってろ、タァリ」  ガンガンと金属製の扉が音を鳴らす。ガラス窓のついた扉の前でイリヤは頭を抱えていた。  どうやってそうなったかは分からない。ケーキ用のチョコレートを倉庫から取りに行ったタァリは30分たっても戻って来なかった。  何かがおかしい。  突然変なことをやりだすタァリだが、だからといって慣れて心配しなくなるわけではない。いや、心配度は増すばかりだ。  目をはなした隙に蜂蜜まみれになっていたり、ホールケーキを被っていたり……言い出すときりはない。  さて、今回は何をしたんだ?  倉庫の前に着いたイリヤは口が塞がらなかった。  あーあ、ロックが壊れているから閉めるな、と何度も何度も注意していた扉をタァリは閉めてしまったのだ。  銀色の扉の向こうで、タァリのすすり声が聞こえる。  この部屋は扉が閉まると照明が消えるようになっている。暗闇の中で、チョコレートを握りながらタァリは扉を叩いていた。 「助けて!早く開けてよぉ!」 「何も起きないから大人しく待ってろ!」 「だってー」 「よし、3歩くらい後ろに下がれ」 「ひっく、分かったぁ」    2人を隔てるものはこの扉だけ。距離で言えばすぐ側にいる。  そう、いつも通り2人は側にいるのに、触れられない距離に2人はいた。  ギシギシっと音がなり扉が開いた。僅かに開いた隙間から飛び出たタァリは勢いよくイリヤに飛びついた。 「イリヤさーん!会いたかったー!」 「タァリ、怪我はないか?」 「うん!あ!チョコレート!はいっ」  タァリの手に握られたチョコレートは少し溶けていたけれど、イリヤはそれを受け取り、元気の良い髪を撫でた。 「午後のお茶でも入れるか」 「わーいっ!」  2人の距離はいつもどおり。  いつも一緒。  いつも仲良し。 【お題「君と僕の距離」 完】

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