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第1話
デスクワークに一段落つけ、俺は伸びをする。
(…少し休憩するか)
時計を見れば、15時を少し回った所だ。
もしかしたら研究室の引きこもりも、休憩室に顔を出しているかもしれない。
そう思い休憩室へ行き中へ入ってみれば、豊白が一人 席に座り雑誌を捲っているだけだった。
「お疲れ。…豊白だけか?徳川は?」
「あ、明紫波センセ、お疲れ様~。真琴は、患者への説明がある言って、さっき出て行ったで。…真琴になんや用事やった?」
「いや、いつも二人一緒にいるからな、ちょっと聞いてみただけだ」
すると、微かに顔を赤らめた豊白が
「べ、別に、いつも一緒におる訳ちゃうし」
と照れたように、俺の方に向けていた色違いの瞳を雑誌へと戻した。
(…こういう所が可愛いんだよな)
俺は癒される気分で、豊白の向かいの席へと腰を下ろす、と。
「あ。」
「ん?」
豊白が思い出したように声をあげる。
「せや、この間は猫カフェの無料券おおきに♪真琴と行かせてもろたで。ねこちゃん可愛いかったわぁ♪」
嬉しそうな顔でお礼を言う豊白に俺の頬も弛む。
「お前が好きそうだったからな。喜んで貰えて良かったよ」
「ふふ。」
「……なんだよ。」
意味ありげに笑い俺を上目づかいに見る豊白に俺はギクリとする。
「『お詫び』なんやって?無茶苦茶なシフトの時の。真琴は気づいてへんかったみたいやけど、明紫波センセ、八つ当たりやったやろ?」
「……!」
「やっぱり。石黒センセが構ってくれへんかったからって、こっちに当たらんとってや。」
少し困ったように笑う豊白に俺は観念して素直に謝る。
「…わりぃ。お前に迷惑かけるつもりはなかったんだがな。(お前とイチャつく徳川にイラッとして)…つい。」
「…もう、しゃあないなあ」
そう言って豊白が向かいの席から手を伸ばし俺の頭に触れると優しく撫でてきた。
「もう、せんとってな」
優しい仕草にドキリとした俺は豊白のその手を掴む。
「……秀吉」
「ん?」
キョトンとする豊白に俺はゆっくり顔を近づけ、その色違いの宝石のような瞳を見つめる。
(……あいかわらず、綺麗な目してんな。ジッと見ていると吸い込まれてしまうような。…俺が好きだった瞳)
「俺の顔に何か付いてるん?」
「…ああ、付いてる。…まつ毛か?取ってやるから、目、閉じろ」
「…ん。ほな、頼むわ」
俺の言葉に素直に従い、目を閉じる秀吉。二色の宝石が隠れてしまうのは残念だが、俺は秀吉の頬に手を添え顔を上向かせる。
そして俺と秀吉の唇が触れそうになった、その時、休憩室の扉の方からコンコンとノックする音とともに声が聞こえてきた。
「…手ぇ出す相手、間違えてねェ?明紫波外科部長?」
ドキッとして声の主の方を見れば、真葉が扉に寄りかかりニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「いや、これは違うんだ。まつ毛がっ、そうまつ毛が豊白の顔に付いてたから、俺はそれを取ろうとしてだな」
俺は豊白の目元を軽く摘まむようにして取ったフリをし、その手を払った。
「ほら取れたぞ、豊白」
「…寸前で止めるつもりやったけどな。…ふふ、おおきにやで。光秀?」
最初の方は小声で聞こえなかったが、付き合っていた頃の呼び名で呼ばれドキリとする。
そんな俺にいたずらっ子のような顔で笑った豊白は
「ほな俺は先に仕事に戻らせてもらいますぅ」
と言って、真葉の横をすり抜け部屋を出て行った。
「………」
「………」
「………なんだよ。」
その後、部屋に二人残った俺たちは暫し顔を見合わせる。そして俺が気まずそうにそう言うと、
「…いや?でもそうだナ、一応、石黒に報告をしとくかナ」
と、しれっとした顔でとんでもない事を言い出す真葉。
「な、そんな事、石黒に言わなくていい!」
「ふうん。言われたくないんだ?じゃあ貸しだナ」
俺が慌てふためき制止の言葉を言うと、真葉は悪巧みするようにニヤリと笑った。
俺はとんでもないヤツに貸しを作ってしまったのだと、後になって悔やむ事になるのだった…。
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