1 / 1
VS 女王様
「~♪」
鼻歌を歌いながら、朝食の準備をする。
仕事柄、体が資本なので朝はしっかり摂るようにしている。
しっかり、ガッツリ、肉料理だ。
「~♪」
肉を焼きながら思い出すのは、昨日の事。
昨日は久々に恋人の光秀とゆっくり過ごす事が出来た。
『…真珠。テメー、本当に綺麗好きなんだな。独身男の部屋にチリひとつ無いってどうなんだ』
呆れてるんだか、感心してるんだか、光秀は俺の家に来る度に部屋が綺麗だと言う。
掃除が趣味と言っても過言ではない俺は、そう言われて悪い気はしない。
綺麗に片付いた俺の部屋に、恋人の光秀と二人きり。
…その気にならない訳がない。
『…光秀』
俺は光秀を後ろから抱きしめる。
『…なんだよ』
と、顔だけ振り向く光秀の唇に自分のそれを合わせる。
『…なあ、シようぜ』
『…ああ? いいのかよ』
『ん?何がだ?』
『何って。今日はいつもは出来ねえ場所の掃除をするって言ってなかったか?』
『ああ。それはいつでも出来る』
『はあ?』
『だが、お前を抱くのはいつでも出来るわけじゃねえ。…だからシようぜ』
『…っ』
言葉に詰まる光秀の唇をもう1度奪う。
そしてそのままソファへと押し倒し、キスで蕩けた顔をする光秀を抱きしめる。
『もうガマン出来ねぇ。…スるぞ?』
光秀の耳に唇を寄せ そう囁けば、照れ隠しなのか ぶっきらぼうな返事が返ってきた。
『…テメーだけが、ガマンしてたと思うなよ。…シてえのは俺も同じだ』
熱の灯った目が俺を至近距離で射抜く。
俺は堪らず光秀の服を早急に剥いでいき――
「おお、旨そうだな」
急に聞こえて来たソイツの声で俺は現実に引き戻された。
「…テメェ、マジュ(女王様)。朝帰りとは言い身分だな」
「ああ?テメェらに気を遣ってやったんだろうが。どうせ朝までヤッてたんだろ?光秀は?まだ寝てんのか?」
「光秀なら昨夜、日付が変わる前に帰った。今朝は早くから職場に行かなきゃならねえらしいからな」
そう話ながらも食事の準備は進めていく。肉がいい焼き具合になった所で火を消すと横から皿が差し出された。
「…テメェの分はねえぞ」
「嘘つけ。一人分の量じゃねえだろ。半分、俺が食ってやるよ」
何故か機嫌が良さそうなマジュに手伝われ食事の準備を終わらせた。
向かいの席に各々着き、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
暫くは無言で箸を進める。
だがどうしても気になった俺は、食べながらもマジュに話をふった。
「…随分、機嫌がいいな。昨日は『気晴らし』が上手くいったのかよ?」
そんな俺の問いに、面白そうに視線を寄越してマジュが答える。
「まぁな」
だが、それ以上は話す気がないらしくマジュは食事を続ける。
(チッ)
思わず心の中で舌打ちをするが、何故自分がこんなにモヤモヤした気分になるのかが分からない。
「…誰の所に行ってたんだ?」
「ああ?なんだ、気になんのか?」
俺の様子がいつもと違う事に気付いたのかマジュがニヤニヤしている。
「気になるわけじゃねえ。ただ、テメェの保護者として俺は…」
「なんでテメェが、俺の保護者なんだよ」
笑い出すマジュ。
そんなマジュに憮然としていると
「くくっ。昨日は茨城の所に行ってたんだ。アイツはいいな。…なかなか美味かったぜ」
挑発するような目で俺を見るマジュ。
モヤモヤしていたものが怒りに変わる。
「…他のヤツのとこに行ってんじゃねえよ。この、尻軽女王がっ!」
「ああ?テメェにそんな事言われる筋合いはねえよ!大体、誰が尻軽だっ!」
「尻軽は尻軽だろう!?誰にでも跨がって腰振りやがるくせにっ」
「誰にでもだあ?俺は俺が気に入ったヤツとしかシねえよ。っざけんな!」
「はっ、気に入れば誰とでもヤんだろ?じゃあやっぱ、尻軽女王じゃねぇか!」
「尻軽、尻軽、うっせえなっ!俺が誰とシようが、テメェにゃ関係ねぇ話だろうがっ」
マジュが俺を睨みつけて放った『関係ねぇ』の言葉に俺の胸は小さな痛みを覚える。
「…関係ならあるだろ」
「ねぇよ。まさかまた保護者だからとか言うんじゃねえだろうな?」
「…昨日、テメェは俺に『好きだ』と言った」
「ああ?言ったがどうした。…テメェは俺より光秀がいいって言ったじゃねぇか」
「光秀の方がいいに決まってんだろ」
「だったら俺の事に口出しすんじゃねぇよ」
「うるせぇ!いやだ」
「わがままか。…いや違う。どうしたんだ真珠?らしくねぇぞ?」
確かにらしくねぇ。だがモヤモヤしていた何かが晴れていくのは感じる。
「俺は俺だ。俺はテメェが俺以外のヤツとヤんのは気にいらねぇ。だからヤるな」
「…勝手なヤロウだな。じゃあテメェが俺の相手をすんのかよ?」
「ああ?それは出来ねぇ。俺には光秀がいるからな。」
「…この王様ヤロウ」
「なんとでも言え。」
俺はスッキリした気分で食べ終えた食器を流しに持っていく。
「食べたんだから、テメェが洗い物をしとけよ」
「テメェも食っただろうが。一緒にやれよ」
「俺はもう仕事に行く時間だ。テメェとくだらねえ話をしてたからな。もう時間がねえ」
「チッ」
舌打ちしつつも流しの前に立ち、洗い物を始めるマジュ。
そんなマジュを残して、俺は支度をし仕事に行く為に家を出た。
俺の背にマジュが投げつけた言葉に気づかずに……。
「…テメェの勝手だけが通ると思うなよ?覚えておけ。今夜、光秀を抱けなくなるまで搾り取ってやる」
了。
ともだちにシェアしよう!