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2.
翌日から俺は隠れて日野を観察した。
誰が叩いて蹴って無視したか、毎日ノートに綴る。
1ヵ月が過ぎて気付いたのだが、苛めには担任も加わっていた。
気付いているのに注意せず嘲笑っていたのだ。
目の前で自分の生徒が悲鳴を上げているのに、止めずニヤニヤ楽しそうに眺めている。
狂っている、そう思った。
教室では皆何もなかったかの様に振る舞う。
苛めなんて一切ない明るい雰囲気。
生徒思いの優しい先生。
苛めを傍観している時の歪んだ表情なんて微塵もない。
何日もそれを見ている間に俺の精神はおかしくなってしまった。
誰も信じれない。誰も信じたくない。
そして日野が病欠で休んだ日を境に、俺は今迄の自分を捨てた。
日野を苛めた奴等を1人1人苛めていった。
あんなに日野を苛めてたクセに自分がされたら泣くんだ。
へぇ、日野は沢山酷い目にあっても泣かなかったぞ。
弱いな、コイツ等。
最初は仕返し。
だが途中から凄く楽しくなってきて、いつの間にか俺は苛めの中に性的興奮を感じる様になっていった。
中学迄は義務教育だったから大丈夫だったが、高校は数回の停学で退学になった。
あれ以来日野とは全く顔を会わせていない。
高校も何処にしたのか知らない。
日野は元気だろうか?
今更俺に心配されても嬉しくないだろう。
考えない事にした。
退学を言い渡された後、帰ったら怒られる事が分かっていた為遠回りして帰る事にした。
適当に彷徨っていたらドクンッ突然凄い衝撃が走り、そのまま意識を手放した。
目を覚ましたら病院だった。
体調不良と空腹による貧血。
そして直接的な原因はΩの発情期が始まる予兆だった。
男女の性別以外にα・β・Ωがある事は知っている。
だがαやΩは少なく人口の殆どはβだ。
面倒臭くて今迄血液検査は受けなかった。
どうせβだろうと思っていたからだ。
Ωは発情するし妊娠もする。
俺が妊娠?
俺に幸せになる権利なんてないだろ?
つうか、妊娠とか想像も付かないな。俺男だし。
医師から発情抑制剤を渡されたが飲み忘れた。で、人生初の発情期に悩まされていたら
「うっわ。スッゲェな、お前」
物凄い男前に出逢った。
彼の名前は村主朧(すぐり おぼろ)。顔だけでなく名前も格好良い。
耳に心地良い低くて甘い声。
物凄く整っている顔は老若男女関係なくモテるだろう。
全体的に品があって、頭も良さそう。
何処か雰囲気が日野に似ている。
変なの。顔も声も性別も全く違うのにな。
でも何故か不思議な懐かしさを感じた。
「倭京雨音(わきょう あまね)」
名前を聞かれて思わず色々自己紹介したくなったが、見ず知らずの人に何言おうとしてんだ?俺。慌てて飲み込んだ。
村主は懐が広い人間だった。
突然目の前で倒れた俺を看病して優しくしてくれた。
今迄苛めしかしてこなかった自分は人との接し方が分からない。
友達らしい友達も居なかった。
だからどう接して良いのか分からずツンツンしてしまう。
村主からは甘い匂いがする。
今迄の罪も醜い俺も、全てを包んで癒してくれる様な優しい優しい香り。
側に居るだけで涙が出そうになる。
受験生という事もあり村主はいつも勉強をしている。
難しそうな数列や英文や見た事ありそうな人物の写真。
ちっとも分からなかったが、必死に頑張る姿を見ていたらなんだか自分もしてみたくなった。
本棚から適当に参考書を取り、目を通す。
パラパラ捲っていたら
「ココはこうするんだよ?」
いつの間にか村主から勉強を教えて貰う様になっていた。
今迄全く分からなかった内容が不思議な位理解出来る。
村主は物凄く教え上手で、あんなに嫌だった勉強がいつの間にか楽しくなった。
特に好きになったのは歴史。
大河やゲームの人物が出てくる戦国時代は知れば知る程面白い。
資料を見ながらもっと真面目に勉強すりゃ良かったな、少し後悔した。
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