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翌日から俺は隠れて日野を観察した。 誰が叩いて蹴って無視したか、毎日ノートに綴る。 1ヵ月が過ぎて気付いたのだが、苛めには担任も加わっていた。 気付いているのに注意せず嘲笑っていたのだ。 目の前で自分の生徒が悲鳴を上げているのに、止めずニヤニヤ楽しそうに眺めている。 狂っている、そう思った。 教室では皆何もなかったかの様に振る舞う。 苛めなんて一切ない明るい雰囲気。 生徒思いの優しい先生。 苛めを傍観している時の歪んだ表情なんて微塵もない。 何日もそれを見ている間に俺の精神はおかしくなってしまった。 誰も信じれない。誰も信じたくない。 そして日野が病欠で休んだ日を境に、俺は今迄の自分を捨てた。 日野を苛めた奴等を1人1人苛めていった。 あんなに日野を苛めてたクセに自分がされたら泣くんだ。 へぇ、日野は沢山酷い目にあっても泣かなかったぞ。 弱いな、コイツ等。 最初は仕返し。 だが途中から凄く楽しくなってきて、いつの間にか俺は苛めの中に性的興奮を感じる様になっていった。 中学迄は義務教育だったから大丈夫だったが、高校は数回の停学で退学になった。 あれ以来日野とは全く顔を会わせていない。 高校も何処にしたのか知らない。 日野は元気だろうか? 今更俺に心配されても嬉しくないだろう。 考えない事にした。 退学を言い渡された後、帰ったら怒られる事が分かっていた為遠回りして帰る事にした。 適当に彷徨っていたらドクンッ突然凄い衝撃が走り、そのまま意識を手放した。 目を覚ましたら病院だった。 体調不良と空腹による貧血。 そして直接的な原因はΩの発情期が始まる予兆だった。 男女の性別以外にα・β・Ωがある事は知っている。 だがαやΩは少なく人口の殆どはβだ。 面倒臭くて今迄血液検査は受けなかった。 どうせβだろうと思っていたからだ。 Ωは発情するし妊娠もする。 俺が妊娠? 俺に幸せになる権利なんてないだろ? つうか、妊娠とか想像も付かないな。俺男だし。 医師から発情抑制剤を渡されたが飲み忘れた。で、人生初の発情期に悩まされていたら 「うっわ。スッゲェな、お前」 物凄い男前に出逢った。 彼の名前は村主朧(すぐり おぼろ)。顔だけでなく名前も格好良い。 耳に心地良い低くて甘い声。 物凄く整っている顔は老若男女関係なくモテるだろう。 全体的に品があって、頭も良さそう。 何処か雰囲気が日野に似ている。 変なの。顔も声も性別も全く違うのにな。 でも何故か不思議な懐かしさを感じた。 「倭京雨音(わきょう あまね)」 名前を聞かれて思わず色々自己紹介したくなったが、見ず知らずの人に何言おうとしてんだ?俺。慌てて飲み込んだ。 村主は懐が広い人間だった。 突然目の前で倒れた俺を看病して優しくしてくれた。 今迄苛めしかしてこなかった自分は人との接し方が分からない。 友達らしい友達も居なかった。 だからどう接して良いのか分からずツンツンしてしまう。 村主からは甘い匂いがする。 今迄の罪も醜い俺も、全てを包んで癒してくれる様な優しい優しい香り。 側に居るだけで涙が出そうになる。 受験生という事もあり村主はいつも勉強をしている。 難しそうな数列や英文や見た事ありそうな人物の写真。 ちっとも分からなかったが、必死に頑張る姿を見ていたらなんだか自分もしてみたくなった。 本棚から適当に参考書を取り、目を通す。 パラパラ捲っていたら 「ココはこうするんだよ?」 いつの間にか村主から勉強を教えて貰う様になっていた。 今迄全く分からなかった内容が不思議な位理解出来る。 村主は物凄く教え上手で、あんなに嫌だった勉強がいつの間にか楽しくなった。 特に好きになったのは歴史。 大河やゲームの人物が出てくる戦国時代は知れば知る程面白い。 資料を見ながらもっと真面目に勉強すりゃ良かったな、少し後悔した。

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