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第20話
辛そうな癖に強がってんじゃねえよ。
部屋の中は所狭しと美術品が並べられていて、桑嶋は現状把握のため部屋のデータをまず保存する。そして次々に証拠データを取り込む。
美術品の横流し密輸となればかなりの罪状である。全てのデータを取り込み、小型端末を片手に部屋の中のものを最初のデータ位置どおりに戻して、と、胸元へと押し込んで部屋外に出て扉を閉じる。
これはかなり大掛かりな組織の密輸に間違いない。
彼が就任してからの摘発件数は、就任前の3倍である。いままで何をしていたのかと局長の立場もあやうくなりかねないが、きっと総監ぐるみでうまくやるのだろう。
桑嶋が前の部屋に戻ると統久は、先ほどの位置でうずくまったまま動きを止めているようだ。
荒い呼吸音が静かな空間に響き渡る。
まさか、こんなところにこの状態で置いていけないよな。
「周期、ズレないんじゃないんですか」
声をかけながら、桑嶋はゆっくりと近寄ると、首を何度も振って統久は、手足をガクガクと震わせる。
くそ……朝から、歩弓が……居たせいだ。我慢の限界もあったが、当てられすぎて、狂った……。
「……環境が変わったばかりだからかな。案外、繊細なん……だ。つか、おい、馬鹿、セルジュ、コッチくンな」
額に粒のような脂汗をかきながら、なんとかいつもの自分を取り戻そうと引きつった笑いを浮かべる彼が、桑嶋には、いつになく心許なく思えた。
桑嶋は、どうにか体を支えて脱出しないといけないと思い近づくと、統久は身をよじって逃げようと壁の隅へと後退る。
「まあ、明日から休暇とってくださいよ」
桑嶋は流石に巨体は担げないなあと思いながら、統久を追い詰めて腕を引き肩に載せようとすると、バンッと音がするほど大きな動作で振り払われる。
「じ、自分で歩け、る……から……さき、いって、くれ」
「無理ですって、そんなんで立ててねえじゃないすか。しかも、そんなにおい撒き散らせて、外に出れても犯されるだけですって」
呆れたような表情を浮かべる桑嶋を、ギリッと統久は睨み上げる。普段はしないような威嚇を含んだ彼の表情に、桑嶋はぞくりと背中が震えた。
まるで、手負いの獣かよ。
「かまわん。……オマエが………ちかよるし………さわる、からだ。……りせいが……なくな……る……、これくらい……いつもなら……おさえられ、んのに」
押し出す声が震えていて、統久からはいつもの人を食ったような表情はなくなっていた。
切れ長の目が潤んで求めているかのように見えて、桑嶋は生唾を飲み込み、振り払うように軽く首を横に振った。
「かまわんってな。アンタ輪姦されてもかまわないのか。ホント、節操ねえな。流石にオレも上官が輪姦されるのを、見捨てられねえんで。ソレ期待してるなら……悪いんですけどね。ちょっと寝といてください」
桑嶋はポケットからスタンガンを取り出して、統久の首元に押し当てて放つ。ビリビリッと音がして、目を見開いた統久は体をビクッビクッと痙攣させて気を失った。
桑嶋は、自分より上背のある統久をなんとか担ぎああげてなんとか搭乗口へと向かって船を下りる。
それにしても発情期ってのは、こんなにも人を変えちまうもんか。そりゃ、こええよなあ。
このクソでかい無骨な男を、色っぽいとか思うだなんて、な。
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