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第25話
歩弓はいつも出勤する時には、出勤時間の三十分前には局についてるが、その時間にはすでに居る兄の姿がなくて酷く嫌な予感がした。
そう言えば昨夜は潜入捜査の当日だった。まだ作戦の成果についての報告書があがってきてはいない。
何でもこなせるあの人が、誰よりも努力家なのは昔からである。いつだって完璧にこなせるように、すべてを準備してしまうような人だ。
この時間に何の報告もなく出勤もしてこないなんて有り得ない。
歩弓は焦る心地の中で、端末の指し示す時間を見ると、すでに就業時間の5分前になる。
突如端末からアラート音が鳴り響いて、恐る恐るといったていで歩弓は通信ボタンを押すと、かなりやつれた表情の桑嶋の顔が画面に映る。
『局長、すみません。昨日の作戦決行中に副局長がヒートをおこしました』
桑嶋の表情にはなんとなくだが後ろめたさがあるのが、歩弓には直ぐにわかった。
ヒートを起こしたオメガがアルファと朝まで一緒にいて、何もおこらないはずがなく、あきらかに桑嶋が彼と一線を超えたのがわかって、歩弓は奥歯をギリと噛み締める。
桑嶋が兄を嫌っているのは周りからも聞いていたし、本人も苦手そうだったので安心していたのは間違いだったかもしれない。
歩弓は突然現れたダークフォースに睨みを効かせる。
「まさか、桑嶋。貴方は、兄とつがったわけでは無いですよね」
だとしたら、僕たちは義兄弟になるわけですしと言い訳のように歩弓が言葉を続けると、桑嶋はまだですとだけ答える。
まだ?
その言葉にかなりのひっかかりを覚えたが、歩弓には何もいう言葉がない。まだということは、これからその可能性があるっていうことを示唆しているのか。
歩弓は兄と一緒に自分も休暇をとりたいという桑嶋に許可を与えると、軽く頭を下げる。
「わかりました。……兄をよろしく頼みます」
よろしくなんてことは、他人に頼みたくない。
あの人に近づくことすらできやしないのに。簡単に触れることが出来るだなんて、絶対に許すことはできない。
胃の中から迫り上がる吐き気と一緒に沸き出すどす黒い気持ちはなんだろう。
兄様を……。僕のただ一人の運命の番である、あの人を汚すだなんて、誰であっても……許せない。
……絶対に。
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