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第9話

 嬉しすぎて飛び上がりたい気分だったが、至極冷静に演技をしてみる。 「いや、でもいきなり部屋にお邪魔しちゃうだなんて、悪いですよ」  そんな事言いながらも、心の中ではそんな事思っていない。  連れて行って欲しい。森下くんの住んでる場所に。  素直にそう言えれば良かったのに、森下くんは僕の言葉をストレートに受け取ったみたいで、困ったように笑っていた。 「あーそっか、急によく分かんない人ん家で飲むっていうのも落ち着かないですよね?」  いや、そうじゃない! そこは気を遣わないで下さい!  大声で否定したかったけれど、好きな事がバレたら嫌なので「いえいえ、嫌じゃないですよ」と落ち着いて答えてみる。 「ほんと? 俺はその方が楽だし全然いいんだけど。店長は遠くなっちゃうか。ここから四駅行った所でしたっけ?」 「僕は適当に帰りますから大丈夫ですよ」 「もし面倒だったら泊まってってもいいですよ。じゃあ、飯コンビニで買ってく? それとも……あっ!」  森下くんは閃いたようにいきなり声を上げたかと思うと、僕を手招きして建物と建物の間に入り込んだ。 「店長、ラーメン食べてから家で飲まない? ちょっと歩くけど、美味しいラーメン屋さん最近見つけて。北海道ラーメンだからコーンバター醤油とか超美味しいよ?」  森下くんって、よく笑うよなぁ。  目尻が垂れて、綺麗に並んだ歯を出してにこーって。  きっと、彼を目当てにお店に来る女性とか多いんじゃないかな。 「ラーメン好き?」 「うん、好きですよ」 「良かった。じゃあそこでビールも一杯、奢って下さいね?」 「分かりました」  ついでに君の事も、好きですよ。  いや、言わないけど。  僕はその背中についていくけど……さっきの森下くんの発言をもう一度脳内再生してみる。  “もし面倒だったら泊まってってもいいですよ”  泊まっていいからって言った? 本当に?  なぜかお風呂に入る想像をしてしまって、勝手に森下くんの裸を妄想してしまった。  逞しい二の腕、背中、腹筋、おへそ……その下の……  卑しい自分を戒めるようにブンブンと首を横に振った。  (いや、落ち着こう。彼は何となく言ってみただけだ。その言葉を本気にして、図々しく部屋に居座ってしまったら迷惑だろう)  それにいきなり何時間も一緒にいたんでは、僕の心臓がもたない。  絶対に終電までには帰ろう。  胸がいっぱいで食べられそうにないと思っていたけど、ラーメン屋に着いた途端、バターとコーンの食欲のそそる匂いを嗅いだらお腹がキュルキュルと鳴った。  カウンターに座り、ラーメンとビールを頼む。  おしぼりで手を拭いていたら、森下くんは急にタバコの箱をポケットから取り出した。  (吸うの?!)  僕の頭の中の森下メモが追いつかない。  えっとー、森下拓真、左利き、ラーメン好き、タバコはマイセン、お酒はだいたい何でも飲める(さっき聞いた)……  森下くんは品よく紫煙を吐き出した。  僕の周りではタバコを吸う人はあまりいないから、その光景が新鮮で、それに加えて森下くんが綺麗だからやっぱり見蕩れてしまった。  しばらく前を向いて吸っていた森下くんだったけど、ふっと急にこちらを向いたので慌てて視線を外した。 「……店長ってさー」  なんだか含みのある笑いをされたので、何だろうと気になったが、僕らのテーブルにビールが運ばれて来たので一旦会話が途切れる。  飲んでからその続きを聞こうと思ったけれど、森下くんは別の話を話し始めたので聞けなかった。

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