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第11話

「ビール、冷蔵庫の中に入れとくよ。今準備するから座ってて」 「あぁ、ありがとうございます」  持っていたビニール袋をそのまま渡し、僕はその場に腰を下ろした。  座ってもなお、室内にあるいろんな物に目移りしてしまう。  ――素敵だ、森下くん。  部屋を見て、ますます好きになってしまったかも。  そんな風に高揚していたのもつかの間、テレビ台の隅に視線を滑らせた僕はある物が目に飛び込んできて、思わず息をのんだ。  ……女性用の髪留めが置いてある。  アンティーク風の透かしレースになっている金のバレッタで、それはそれは繊細な造りで可愛らしい。  筋肉ムキムキのヒーローをアイコンにしている男の持ち物だとは、まるで思えない。  (あー……そっか。まぁ、そうだよな)  こんなに笑顔が耐えない魅力的な人なんだから、彼女がいるなんて当たり前か。  不思議と頭は冷静で、泣きたい気分にはならなかった。  むしろこれ以上のめり込む前に早めに分かって良かったと思う。  というか僕は、森下くんに彼女がいなかったからといって上手くいくかもしれないと期待していたんだろうか? それも謎だけど、今だったらまだ間に合う。  あの時みたいに、気持ちが抑えられなくなって勢いで告白して、音信不通になられるよりも数倍マシだ。  ……て事は僕、結局は森下くんとは普通にお友達でいいって事だよな?  よく整理してみよう。  彼と今後どうなりたいのか、正直何とも言えない。  今日一気に二人の距離が縮まった事に、まだ頭が追いついていないんだ。  今の気持ちは、ただ友達になりたい。  親しくなりたい。  ただ、そばにいさせてほしい。  それだけだよ、たぶん、きっと。

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