33 / 35

青葉時雨の誤算

ずっと好きだった人。 漸く手に入れた事に安心していたせいか、あっさり失った。 油断大敵だった。 必死に取り戻そうと考えたが一向に良い手は思い付かず、俺は強行突破に出た。 三浦先輩を好きな女性は沢山居る。 その中でも一番行動力がありそうな人に狙いを定めて話を持ち掛けた。 三浦先輩と話す機会を与えると。 彼女が三浦先輩と話してる間に俺は千紗を手に入れる。 千紗に比べたら遥かに劣るが、まあまあ綺麗な顔立ちをし、自分に行為を寄せている女性から話し掛けられたら一般男性なら嫌な想いはしないだろう。 俺と違い三浦先輩は千紗以外とも付き合える。 三浦先輩が彼女に惹かれたら大成功。 失恋した千紗を慰めながら縒りを戻す。 まぁそんなに簡単に行くとは思えないが、僅かな期待を抱きつつ計画を実行した。 無理矢理だが千紗を抱き、軟禁した。 嫌われたくない為無理矢理したのは最初の1回目だけ。 食事を与えたり甘やかしたり勉強を教えたり、完全に縒りを戻す行為には程遠いが、嫌われたら全てお終いだ。 それに手を出せなくても側に居てくれるだけで幸せだ。 充実した時間に幸福を感じていた。 だが、そんな時間は長く続かない。 どうやら俺は色々と失敗したらしい。 千紗にプリンを作っていた時だった。 「え?」 有り得ない事情を電話で知らされた。 どうやら三浦先輩が大学に無断欠席し、行方不明らしい。 そしてあの日三浦先輩に話し掛けた女性が様々な病院に現れている。 俺の家かかりつけの医師が務めている病院にも来た彼女は小瓶を手に子供が欲しいからこれを使って人工授精をしてくれと喚き散らしたらしい。 三浦という聞いた事のある名前を耳にした医師が俺に教えてくれた。 交友関係を軽く話していて良かった。 三浦先輩が千紗以外の子供を、それも人工授精して迄欲しがるだろうか。 もしかしたら俺の計画が成功して三浦先輩が心変わりしたのかもしれないが、まだ彼女と逢わせてからそんなに時間は経っていない。 学生だし人工授精する程子供を欲しがるとは思えない。 恐らく三浦先輩なら卒業して結婚してから子供を作る筈だ。 行方不明なのもおかしい。 気になった俺は使用人に頼み、彼女を監視し調べて貰う事にした。 どうやら彼女は病院と大学以外は殆ど家に居る。 一人暮らしなのに買うのはいつも二人分の食材。 誰も訪ねて来ていないのを見ると、恐らく誰かと一緒に暮らしている。 だが、その家から出て来るのは彼女のみ。 彼女と話してから消えた三浦先輩。 明らかにこれは関連性が高い。 はぁぁ。溜め息を吐くと 「千紗。面倒な事になりました。一緒に来て下さい」 千紗と一緒に弁護士と数人の使用人達を連れて彼女の家に向かった。 試しに玄関の呼び鈴を鳴らす。 「はい」 かなり時間が掛かったが普通に開いたドア。 玄関にあるのは彼女の靴のみ。 誰かと一緒に暮らしているんだよな? なら靴がないのは何故だ? 取り敢えず 「三浦先輩」 「壮嗣」 千紗と二人で家の中に声を掛ける。 居なそうな気がするが一応呼んでみた。 案の定返信はなかったがカタンッ、何か小さな音がした。 何だ? 「失礼します」 確認の為使用人を中に入らせる。 すぐさま 「彼女を拘束して皆様中に入って下さい」 中から声がした。 一体何を見付けたのだろうか。 「お邪魔します」 取り敢えず一声掛けて靴を脱ぎ中に入った。 「…………え…」 「は?」 中に入ってビックリ。 うん、コレはない。 余りの展開に全員硬直。 呼ばれたのは寝室。 其所に居たのは全裸の三浦先輩。 首輪と手錠をされ、首輪には鎖迄付いている。 声を出させない様に口にタオルされてるし、目隠しもされている。 何だコレ。 こういうプレイだったらドン引きだが、真っ青になって焦っている彼女の顔色を見ると無理矢理したのが明白だった。 拘束して監禁。 尚且つ三浦先輩の意志を無視して人工授精をしようとしてるのかこの女。 呆れ果てるが、今すべきは三浦先輩の救出だ。 彼女から鍵を奪い、手錠と首輪を取り、タオルと目隠しも外し服を着させた。 食事は摂取してなかったのだろうか、以前に比べると明らかにやつれていた。 弁護士連れて来て正解だった。 拘束と監禁の証拠写真を取り、彼女を警察に連行して貰った。 が、連行直前有り得ない台詞を彼女が口にした。 キラキラゴージャスな王子様と見目麗しい姫王子様が私を迎えに来てくれた。 私の為に争うのは止めて。 こんなに素敵な王子様が現れたのだからイケメンだけれどEDな残念王子様より此方に乗り換えた方が幸せになれそう。 キラキラ王子様に優しく甘やかされるのも幸せだけれど、何も知らなそうな純情姫王子様を調教して自分好みに1から育てるのも素敵よね。 ちょっ、何この人。 色々な意味で怖い。 キラキラゴージャスで噴き出され、姫王子で涙目になり、残念ED王子で爆死した。 笑える。 三浦先輩EDなのか。 「泌尿器科に予約入れましょうか?」 心配そうについでに連れて来た医師が口を開く。 「壮嗣安心して。俺も一緒に行ってあげるから」 千紗まで本気で心配してるが、多分違うだろう。 好きではない人に監禁されての逆レイプではイける筈がない。 萎えまくりだ。 そう気付いたが敢えて 「治療頑張って下さいね?」 ポンッ、軽く肩を叩きにこやかに微笑んだ。 途端 「俺はEDじゃないっ!」 真っ赤な顔で三浦先輩が叫び、俺は噴き出した。 あ~もう、お腹痛い。 彼女の部屋から三浦先輩を連れ出し、念の為病院で検査をして貰った。 睡眠不足と栄養失調で、尚且つ胃潰瘍一歩手間。 こんな状態にさせていたのに俺達が来る迄自分達は幸せに過ごしていたと言い張った彼女。 マジか。 自分が幸せになる為には手段を選ばないとか、ほんっと女性って怖い。 まぁ全ての女性が同じってワケではない。 恐らく、いや絶対に彼女がおかしいだけだろう。 でもこの出来事は三浦先輩を含め俺達に不快な想いをさせたのは明らかで、やっぱり俺は千紗以外無理だな。改めてそう思えた。

ともだちにシェアしよう!