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七章
「……。……部屋へ行ったら、話します」
「…そう、か…」
それっきり何も訊くこともなく沈黙が訪れる。
部屋へ行ったとしても、本当には何か話せるわけでもなかった。
ただ、彼を見ていたら、喉が貼り付いて干りつくような渇きに襲われて、拉致してでも共にいられずにいられなかった。
関わらないようにと避けていた分だけ、どうしようもなくその体を求めていて、ただ欲しくてたまらなかった。
欲しくて……長く触れもせずにいた手を伸ばした。
股の間に触ると、驚いた顔でこちらを見つめた。
「……ここで、やめろ…」
タクシーの中だからと、手が払いのけられる。
だが、ここがどこだろうと、そんなことはどうでもよかった。
もはや飢えるような渇きを満たすためには、手を止めることはできなかった。
「……こうすれば、見えませんから」
自分のスーツを脱いで、下腹部に掛けて、チャックに指をかけた。
「ダメだ…よせ…」
運転手に聞こえないよう小声で言い、手を押さえ込むのを、力ずくで引き下ろした。
「……各務っ…」
抑えた声音で叱るのに、被さるようにして、
「次の交差点は、どちらに曲がりますか?」
と、運転手の声が飛んだ。
「あっ…ああ、右へ……」
咄嗟に答えた彼の声が裏返って、
「……どうか、されましたか?」
不思議そうに尋ねられて、
「…い、いや何も……」
と、取り繕っている間に、下着の上からそこを撫でさすった。
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