36 / 36

後日談-3

式は「先生」としか経験がなかった。 「まだもう少し我慢しろよ、式」 二人目となる男はベッドの上では強引で容赦がなくて、我が身の奥の奥まで暴かれた。 「俺と一緒にいきたいのなら、まだ、だ」 割と清潔感のある白いシーツ。 引き裂く勢いで埋まった短い爪。 ベッドに「伏せ」をして寝具に片頬を擦らせていた式は切なそうに眉根を寄せた。 「おれ、もう……」 傲慢な両手によって空中に引き留められた細腰。 後ろからたっぷり愛される反動で薄い腹にまで反り返った熱源。 隹に揶揄されたように、すすり泣くみたいに半透明の雫を垂らしていた。 「待て、は難しそうか?」 普段なら目くじらを立てるだろう愛犬扱いを式は素直に受け入れてしまう。 「待て、できなぃ……きつい……」 膨脹しきったペニスが仮膣を占領し、腹側に潜む性感帯に惜しみない刺激を浴び続け、下腹部全体が恐ろしく悶々としていた。 「あ……!」 不意に身を屈めた隹に式は甘い悲鳴を上げる。 背中に彼の体重がかかり、隈なく滾る肉杭で後孔最奥までしっかり貫かれた。 「あ……あ……あ」 「できるだろ?」 「やっ……できな……」 「できるよな」 ぐり、ぐり、最奥を意地悪に小突かれて式は枕を掻き抱いた。 「それ……いや……」 「うん……? これか……?」 「あんっ……ぁ……だめ……」 「今の声、いいな……もっと聞きたい」 「ああっ……あ……んっ……ぁぁっ……」 汗ばむ尻丘に密着してきた厚腰。 窮屈な窄まりに頂きが捻じ込まれ、仮膣奥を強めに擦り上げられる。 危うい恍惚感に意識は飛びかけ、我が身と寝具に挟み込まれた熱源が、また、さめざめと泣く気配に式は呻吟した。 「隹……まだ? いつ……?」 先に一人達するのが嫌で率直に尋ねれば低い笑い声が返ってきた。 「そんなに俺と一緒がいいのか」 すぐ耳元で愉悦を含んだ声が奏でられたかと思えば、口内にぬるりと滑り込んできた指。 熱持つ口内を掻き回された。 「ん……ん……ン……」 摘ままれた舌先を優しくしごかれる。 細やかな刺激に頭の芯はぐらついて唾液がみるみる溢れた。 「んン……っ……ぅ」 「ほら、しゃぶってみろ」 指示された通りに式は隹の指をしゃぶった。 愛情深く与えられる恍惚感に理性を溶かして、甘えたい気持ちに突き動かされるがまま咥え込んだ。 「は……可愛いな、幼鳥みたいにがっついて」 式は涙に満ちた切れ長な瞳で真上に居座る隹を見た。 「どこまでも甘やかしたくなる」 揶揄めいた台詞と裏腹に意外なくらい真摯な眼差しにぶつかって式の心臓はブルリと震える。 「ぁ」 あからさまな律動が始まった。 厚腰を繰り返し波打たせ、最奥ばかりを狙って突いてくる隹に式は堪らず駄々をこねる。 「や……っ……これ、だめ……」 「なんでだ……? 俺のこと、こんなに締めつけて、感じてるくせに」 「い……いっちゃぅ……おれだけ先に……」 「……すぐに俺も追い着く」 「やっ……一緒がいい……」 「……」 「一人じゃ、やだ……隹……お願い……」 彼の指を吸いながら恥ずかしげもなくお願いした式だったが。 無視された。 剛直な肉杭で執拗に仮膣を突き貫かれる。 自分よりも体格の優れた隹とベッドの間、逃げようのない独裁的な体位でひたすらペニスを打ちつけられた。 「い……意地悪っ……隹のばか……っ」 幼いこどもみたいに文句をぶつけ、その指に噛みつく。 快感を煽る巧みなピストンに耐えられずに、為す術もなく、達した。 迸った白濁でシーツを汚す。 身も心もぐずぐずになりそうな絶頂に式は一頻り身悶えた。 「あ……っ……はぁっ……は……っ」 やがて絶頂の波が引き、乱れていた呼吸が落ち着いてくると、律動を中断させていた隹を涙ながらにねめ上げた。 「あんたはセックスのとき、こどもがえりする」 二本の指にくっきりと刻まれた咬み痕を満足そうに見、次に式と視線を重ね、隹は笑う。 「新しい扉が開きそうだ」 「ッ……今すぐ閉じてください……」 「一緒にいってやれなくて悪かった」 「別にッ……いつも俺ばっかり先で……自分が何だか不甲斐ないだけで……」 「今から二回か三回、一緒にいかせてやる」 「そ、そんなのむり……あっ……ちょっと……」 「無理じゃない」 ハグしてきたかと思えば、そのまま抱き起こされて背面座位へ。 射精したばかりでだらしなく滑る熱源をそっと握り込まれ、絶頂直後だと際どい刺激に式は身を竦ませる。 「俺と一緒にいってくれ、式」 「ん……っ……っ……三回なんて無理です……」 「じゃあ四回な」 「貴方ねぇッ……あ……っ……んんん……も、ぉ……っ」 悔しいけど流されてしまう。 いつも同じだ。 (いつも隹に捕まる) 幼鳥などと揶揄われた式は、猛禽類じみた鋭い目をした隹の懐に結局のところ幾度となく閉じ込められるのだった。

ともだちにシェアしよう!