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「平坂ぁ~。こんな案件無理だって……! だから嫌だって言ったんだよ……」  会議室の片隅で長身を縮めて涙ながらに訴える戸恒を見つめるのは部下であり『お世話係』であり、恋人から婚約者へと昇格した匡人だった。  彼の不安症は一向に治る気配がない。最近では、これは匡人に対する『甘え』の一種だと割りきって対応するようになっていた。 「たーたん……。この前だって大丈夫だったでしょ? 今回の方が絶対楽チンだからっ」 「え~っ。だって部長が言ってたもん!『今回は戸恒でも厳しいかもな』って……。だから無理だって!」  匡人は上着のポケットに手を突っ込んで、その中にあるジェリービーンズの小袋を取り出すと、何も言わずに戸恒の口に放り込んだ。 「――ん。美味しい」  それまでぐずっていた子供がピタリと泣き止むように、戸恒の動きが止まり口内のジェリービーンズに集中する。それを確認したところで、匡人は少しだけ背伸びをして彼の薄い唇に自身の唇を重ねた。 「絶対に成功する……。たーたんはやれば出来る子なんだから……ね?」 「平坂……」 「誰が課長のそばにいると思ってるんですか? 大魔法使いの俺……ですよ?」  鋭い瞳がギラリと光った時、匡人は壁に縫い止められていた。 「――一発ヤらせてくれたら頑張る」 「だ~め! ちゃんと会議をクリアしたらのご褒美」 「俺が途中でヘタレたらどうする?」 「大丈夫。魔法は切れることはないから……。あ、それでもダメだったらウサギちゃん連れてきましょうか?」  意地悪げに笑った匡人を猛禽類の瞳が見下ろす。それに怯むことなく睨み上げた匡人は戸恒の頬に手を添えて微笑んだ。 「貴英……愛してる。一緒に頑張ろ……」  無邪気な小悪魔が小首を傾けて戸恒に笑いかけると、彼はガクリと力なく項垂れた。 「――その顔、ズルいぞ」  猛獣がお預けを食らった時のような唸り声にも似たその声に、クスッと肩を揺らした匡人はちらりと向けた視線の先で、スラックスの生地を押し上げるように自己主張する戸恒のぺニスに小さく吐息した。 「もう……。どこまでも世話が焼ける上司ですね」  そう言って自身の唇を舐めた匡人はそのままその場にしゃがみこむと、戸恒の股間をやんわりと揉んだ。  生地の上からでも分かる硬さにゴクリと唾を呑み込み、ベルトを緩めてゆっくりとファスナーを下ろした。  前を寛げて下着をずらすと、雄の匂いと共に凶暴で何よりも愛しいぺニスが弾けるように飛び出した。 「ここにも魔法をかけてあげますよ……愛情たっぷりのね」  匡人の声にうっとりと嬉しそうに目を細めた戸恒は、彼の栗色の髪をクシャリと撫でた。  本物の愛情と自信を手に入れた戸恒、虚無ばかりの一人の夜に終止符を打った匡人。  二人の唇が重なる度に魔法はより強力なモノへと変わっていく。  新たに始まったオフィス・ラブは辛くて苦しいばかりじゃない。  どこまでも甘くて、どこまでも愛しい……。  今日もまたジェリービーンズにとっておきの魔力と愛を詰め込んで。  蕩けるほどの魔法をドS上司にかけちゃうゾ! (終)

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