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バカなの?カッコいいの?どっちなの?2
「はい、悠さん。」
「ん、ありがとう。」
渡されたアイスコーヒーを受け取り、美味しそうに飲み始める悠さん。
それを見つめる蒼牙はこっちが恥ずかしくなるほど甘い微笑みを浮かべていて。
相変わらず仲睦まじいその様子に、朝の電話のバカみたいなやり取りが重なり思わず笑った。
「人は多いけど、久しぶりに泳いで気持ちいいっすね。」
「だな。夏休みだからやっぱり家族連れが多いな」
悠さんの言葉にオレンジジュースのストローを咥えながら周りを見回す。
夏の定番スポット、プール。
大きなウォータースライダーと様々な形のプール、滝のように流れ落ちる水は流れるプールへと繋がっている。
カップルやらファミリーやら沢山の客で賑わい、流れる流行りの曲も楽しそうな笑い声で掻き消されている。
所々にある温水は冷えた体を温めようと大勢が集まり、そのほとんどが年輩の人だ。
『優待券あるから一緒に行こう』
まさかプールに誘われるとは思っていなかったので正直驚いた。
今日はナオちゃんとも会えないし、一人で暑い部屋に閉じ籠っていてもつまらない。
何より、この二人からの誘いというのが嬉しかった。
まぁ、蒼牙は誘いたくなかった訳だけど。
その理由がコイツらしいだけに、怒る気にもならなかった。
『優待券のせいで悠さん乗り気だし、せっかくだから内藤くんも誘うって嬉しそうだし。内藤くんが行かなきゃ別のとこに連れ出すつもりだったんだけどなぁ…水着なのに…ほぼ裸の水着、なのに…』
ぶつぶつと文句を言う姿に呆れ半分。
分からないでもないという気持ち半分。
確かに、俺だってナオちゃんの水着姿を他のヤローに見せるのはちょっと妬ける。
『俺の彼女、女神だろ』って自慢したい気持ちも無くはないけど、それよりも邪な目で見られる方が気分よくないもんな。
結局ギリギリまで俺を誘うことを渋り、あの電話に至ったと。
何やら電話してくる前に一悶着あったみたいだけど、藪をつついて蛇を出す気はない。
そこはあえてのスルーを決め込んだ。
「俺も賢くなったよなぁ…」
「ん?何か言った?」
「何でもねーよ。」
蒼牙が首を傾げるのに、一瞬ドキッとさせられる。
…ナオちゃんとたまに素振りが似てるんだよなぁ。
けして友人以上の気持ちは無いけれど、髪を短くしてからの蒼牙はどこかナオちゃんと雰囲気も似ている。
兄妹なんだから当たり前なんだけども。
「なぁ、ウォータースライダーもう一回行かないか?」
アイスコーヒーをズッと飲みきると、悠さんがニコニコと口を開いた。
細いけれど引き締まった身体は汗がうっすらと浮かんでいて、日差しを受けてキラキラと光っている。
濡れた前髪を両手で掻き上げるその仕草は、同じ男から見てもカッコいいと思う。
あー、なんというか、
うん。
『水も滴るいい男』ってこの人のこと言うんだろうな。
「良いですね。順番待ち空いてきてるみたいだし、行くなら今がチャンスかも。」
さりげなく悠さんの手から空の容器を取りながら蒼牙が席を立つ。
途端に背後から「きゃーっ立った!」とか言う小さくも黄色い声が聞こえてきて、いつものことながら蒼牙が無駄に注目を浴びていることを再認識させられた。
まぁ、俺が女でも同じ反応するか。
こと悠さんのことに関しては心狭いし、アホだし、変態的なところがあるけど。
羨ましがるのもバカらしくなるくらい、蒼牙の見た目は完璧だ。(あくまで『見た目』と強調したい)
「内藤くん。」
「んあ?」
咥えていたストローをブラブラさせていれば、蒼牙が眉を寄せて俺を見下ろしていた。
そのどこか面白くなさそうな声と表情に首を捻った。
なんだ?
俺、なんかした?
「さっきから悠さんに見惚れてる。気持ちは分かるけど、減るから止めてくんない?」
「……………………は?」
何言ってんの?
こいつ。
「……ごめん、内藤くん。こいつバカで。」
「あー…いつものことだから気にしてないです。」
顔を押さえため息を吐く悠さんにハハハ…と乾いた笑いを返し、少しの同情を覚える。
蒼牙ってほんと、、、
いや、もう言わないよ。
『バカだ』なんて…
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