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ポッキーゲーム
side 蒼牙
「はい、悠さん」
「ん?あぁ、ありがとう」
隣で本を読んでいる悠さんに某メーカーの細いポッキーを差し出せば、普通に手で受け取ろうとする。
それをヒョイッと避ければ「くれるんじゃないのか?」と首を傾げられた。
それはそれで可愛いけど。
俺が見たいのはこれじゃない。
「違います。今日は『ポッキーの日』ですし、ポッキーゲームしましょう」
「は?ポッキーゲーム?」
「あれ?知りませんか?」
「いや…知ってはいるが」
何でそんな事を?と言わんばかりの顔でこちらを見てくるのに、ニコニコと笑って見せる。
「普通に恥ずかしいだろ。」
そう言って苦笑いする。
どうやら嫌なわけではないらしい、と心の中でガッツポーズをとった。
「じゃあ、一回だけ。負けたほうが焼き肉奢るのでどうですか?」
ポッキーを眼の前で揺らしながら伝えれば、悠さんはニッと笑った。
「乗った」
読んでいた本を机に置くと俺に向き直る。
ワクワクしながらその様を見ていれば、悠さんは自分からポッキーを手に取り口に咥えた。
「ん」
何と言うか…あまりにも自然に顔を突き出され、こちらが赤面してしまう。
「何でお前が照れるかな、言い出しっぺ」
「照れてません!」
クスクスと笑う声が擽ったい。
悔しいけど、その顔が男前で。
「ほら、始めるぞ」
そう言ってポッキーを咥え直すと、悠さんはもう一度顔を差し出した。
「失礼します…」
ドキドキしながらソッと顔を寄せポッキーを咥えれば、眼の前の瞳が面白そうに細まった。
「スタート」
「え…?」
悠さんの声に合わせて齧ろうとしたその時。
ポキポキポキ…!
音と共に一気に悠さんの顔が近付いた。
そのまま唇に柔らかい感触。
チュッ…
小さな響きと共にそれは直ぐに離れ、口をモグモグと動かす悠さんが可笑しそうにこちらを見ていた。
あまりにも一瞬の出来事に呆気にとられる。
次いで、起きた事を理解した途端に一気に顔に熱が集まった。
「お前の負け」
「まって、もう一回!!」
悠さんの腕を掴んで懇願すれば、声を出して笑われた。
「勝負は一回だろ?」
「だって、早すぎます!何と言うか、こう…もっと甘い雰囲気でするもんだとばかり…!」
「そんなルールは知らないな。」
「ううう…」
ケラケラと笑われ、ソファに項垂れた。
おかしい。
こんな筈じゃ無かった。
ただ、ゲームに照れる悠さんを見てみたかっただけなのに。
気づけば照れているのは俺の方で、悠さんは余裕そうにまた本を読み始めている。
正直、悔しい。
すごく悔しい。
俺だって悠さんの照れる顔が見たかった。
「蒼牙」
「何ですか…っ!」
名前を呼ばれ顔を上げれば、肩をグッと押されソファに押さえつけられた。
そのまま、また唇に柔らかい感触。
ゆっくりと離れ、また重なってくる唇にさっきまで感じていた悔しさなんか吹き飛んでしまい。
「悠さん…」
覆い被さるようにして繰り返される口付けに応えた。
「ポッキーゲームは一回だけだけどな」
「はい…」
長い指が乱れていた前髪をゆっくりと整え、そのまま頭を撫でる。
その心地良さに大きく息を吐いた。
そうして至近距離でニッと笑うと、悠さんは言葉を続けた。
「キスなら何回でもしてやるよ。」
「う…カッコいい…!」
男前なセリフと行動。
ああ…駄目だ。
ここまで完敗するとは。
「来年は勝ちます」
「負けないよ」
悔しいやら嬉しいやら愛しいやら。
クスクスと笑う声に大きく溜め息を吐き、今度は俺から口付けた。
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