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最終話

     一度離れていった青年は再び彩入の傍に寄り添った。  斑鳩の家から戻った彩入は数日の間体調が芳しくなく、青年が甲斐甲斐しく彩入を看ていた。数年ぶりにずっと傍にいる青年に、嬉しさがこみ上げてくる。 「彩入さん、今日の体調はよさそうですね」 「そう? 坊がそう言うなら、そうかもしれないねぇ」  彩入の顔を撫でる手は随分と大きくなっていて、もしかしたら彩入より大きくなったかもしれない。そう思ったら気になってしまう。 「坊、手を貸してくれるかい? 手をひろげてみせて」 「? はい、どうぞ」  顔にあてられていた手は外され、彩入の眼前にひろげられた。離れてしまったことが寂しく思え、彩入は縋るような思いで青年と手を重ねた。 「ああ……、やっぱり坊のほうが大きいね……」 「手の大きさですか?」 「うん」  一度くっつけていた手を離し、青年の節くれだった男らしい指をつまむ。久しぶりに触れる青年にどうしようもなく、青年に対する愛しさが溢れそうになった。  ほろほろと涙を流し始めた彩入に青年は目を見開いた。 「……坊」 「どうしたんですか……? なんで、泣いて……」 「……坊、もう、ぼくから離れないでほしい……。急に離れて行ってしまって……サンザカには、坊が何か言ってくるまでは待てって言われてたんだけど……寂しいんだ」  青年が離れてしまい、月雲との性行為が再開し、彩入の心は乱されるばかりだった。 「ぼくね、坊に――魚月に、ずっと傍にいてほしんだ……っ」  魚月の手を掴み自分の顔に押し付ける。 「おねがい、魚月……」 「……彩入さん、オレはあなたの傍を離れません。あなたの願いをオレは聞き入れます。――そのかわりに、彩入さんもオレの願いを叶えてくれますか?」 「……うん、魚月が望む願いは、なに……?」  魚月と目を合わせれば、魚月は柔らかな眼差しで彩入を見つめており――その瞳に、熱がこもっているようにも見えた。 「なつき……?」 「彩入さん、オレの――伴侶になってくれませんか?」 「――――え……?」  目を見開く彩入の頬を両手で包み、寝台に乗り上げ彩入の額に自身の額をすりつける。 「オレはあなたが欲しいんです。あなたは……オレを子ども以上に思ってくれていなかったから……それがつらくて。あなたから離れようと、あなたへの想いが消えるまで離れようと思っていたんです」  孔雀色の瞳は一度沈んだがすぐに光を戻し、彩入を見つめた。 「でも、斑鳩の当主とのことで……こんなことをしていたら、オレが何もしない間に彩入さんを失ってしまうかもしれないと思って……。それに、あなたもオレが傍にいることを望むなら、オレは我慢をやめようと思いました。今、あなたがオレの申し出を断っても、これからずっとあなたに言い続けます。――オレをあなたの伴侶にしてくれませんか?」  真っ直ぐに鳶色を射抜く孔雀色は彩入への想いだけが込められているように思えるほど力強かった。  魚月がそんなことを考えて、抱えていたとは知らなかった。喉が詰まったように、言葉が出てこなかった。  確かに彩入は魚月を子どものように思って大事に慈しんできた。魚月を “番” と思う以前に、魚月を子どもだと思っていた。魚月も彩入を親のように思っているだろうと、勝手に思っていた。 「……なつき、ぼくがそれを叶えたら、ずっと傍にいてくれるの?」 「ええ、ずっと。もう二度とあなたから離れたりしません」 「ほんとう?」 「ええ」 「なら――」    * * * *     一度離れていった番はずっと彩入の傍に寄り添っている。 「双子の姉がいるからあり得るかなって思ってたけど」 「通りでお腹が大きかったわけです。元気に産まれてきてよかったですね」  ベッドで寄り添うに眠る二体の嬰児。  ぷくぷくの嬰児の頬を彩入と番は突いていた。 「こっちの子は、サンザカと同じ匂いがするんだよねえ」 「え、じゃあ山茶花さんの番ってことですか?」 「そういうことになるね。後で芹生の家に連絡しないとだねえ」  山茶花の驚く顔が目に浮かぶよ、と彩入はころころと笑った。        

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