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おまけ

梅の季節も終わり、桜の開花が待たれる時期。 この時期は年度末に追われて、各店舗は大忙しだ。 あれやこれやの手でお客を店舗へ呼び込み、売上を上げるのに必死だ。 「逢阪いるーー?」 田城が書類を持って事務所に入ってきた。 「あら、今日は朝から納車よ。予定表見てよ」 電卓を片手に土井が予定表を指差す。 「この繁忙期にアイツが納車の同行って珍しいな。しかも県外じゃん」 「何でも浅倉支店長のお友達らしいわよー、二人で納車だって」 あああ、数字が合わないじゃないの、と土井は背伸びしながら呟いた。 「なんで逢坂を連れてくのか…あ、身障者向けの車だからか」 「エンジニアがいる方が色々説明詳しく出来るし、お客も安心なんでしょうけどね」 電卓を置いてコーヒー缶を手に取った土井はニヤリと笑う。 「私の目はごまかせられないわよ〜〜!絶対いちゃついてるわ!」 「だからやめなさいって…」 「何よう、彼女の思考についてきなさいよ!はいコーヒ上げるからっ」 田城は苦笑いしながらも、自分から告白した手前逆らえないのだ。 「ハイハイ…」 「ハックション!!わ、わわ」 逢阪が大きくクシャミをしてうっかりハンドルが取られそうになった。 納車する車を乗せた積載車が左右に蛇行している。 その様子に助手席の浅倉が呟く。 「おい、殺す気か?」 「おかしいなー、風邪ひいてないのに」 誰か噂してんじゃないですかねえ、と鼻をこすりながら前を向いた。 店舗をでて数時間。納車する逢坂の友人宅まではあと少しだ。 山の中のトンネルを抜けると、目の前に海が広がる。 仕事とはいえ晴天の中を走ると心地よい。 「納車まで行くなんて、よほどの親友?」 逢阪が運転しながら浅倉に聞いた。 ぼんやり海を見ながら、そうだなあと頷く。 「気分転換もしたかったしな。支店長仕事も楽じゃない」 「なんとまあ、悠長なお言葉で…」 それでも他エリアの支店長がエンジニアと納車というのはおかしい話だ。 きっと店舗では土井が笑っているだろう。 (さっきのくしゃみはアイツか…) 「それと最近忙しくて逢えてないからな」 不意に浅倉がそう呟いた。逢阪は思わず、横を見る。 「だ、誰と逢ってないって!」 「バカ!前見ろ前!!お前に決まってるだろうが!!」 支店長の顔が、ふと恋人の浅倉に戻る。 その瞬間が逢坂はたまらなく嬉しいのだ。 【了】

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