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第1話 矢千深月

異性間の恋愛が一般的と言われていた時代はとうの昔。今では同性婚が認められ、自身のセクシュアリティに誇りを持って生きることが許されている。 その一方で、同性愛者と異性愛者による衝突も問題視されていた。こまごました不平不満から、警察が介入しなければならない悪質なケースまで千差万別。 何故人はここまで恋愛に振り回されるのだろう。 種を残す為、誰かと交わることは遺伝子に組み込まれている。恋愛は人として自然な現象。 とはいえ、中には苦しみもがいて自ら命を絶つ者もいる。性の為に生を投げ出すなんて冷静に考えたら本末転倒で、甚だおかしい。 矢千深月(やせんみづき)はここに来た時から疑問を感じている。そして分かっていた。 自分はドライだ。ドライの中のドライ、スーパーでスペシャルでスローペースな3Sドライ人間。二十六年生きながら恋人と呼べる存在がいない。……恐らく、つくったことはただの一度もない。 断言できないのにはちょっとした事情があるが、やはりこの性格からして恋人をつくるのは無理があると思う。 矢千からすれば、人は恋愛という狂気に取り憑かれているようにしか思えなかった。 人は不思議なもので、幼少期、少年期と上がれば上がるほど恋愛に対して前のめりになる。このアイドルがかっこいいとか、隣のクラスの〇〇君かっこいい、とか言い出す。しかもそんな自分がイケてる大人だと思い込んでいる。 終いには所構わず抱き合ってキスしたり、二言目には付き合っちゃおうかと零したり、エロ動画を公然と鑑賞する。現代の若者達、というドキュメンタリー番組がテレビで流れているのを目にした時はとても自然にため息が出た。 ……なんて、遙か昔のはもっと自由奔放だったのだから、とっくの昔に腐って原形を留めていないのかもしれない。 あれだけ毒を吐いていた自分だって、今や軽蔑すべき人種のひとりに成り下がっている。

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