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十七
気持ちよくて夢中になって腰を振る。
今まで知らなかった快楽。
わかっていなかった時間は無駄だった。
処女の失い方が悪かったこともありセックスは痛くて苦しいものだと思っていた。
最低で最悪で不快で気分を悪くさせるもの、そう思ってオレは絶望していた。
こんなことを孕むまでしなければならない不自由。最低だ。
オレのことが心底嫌いだからオレの嫌がることを木鳴弘文がするのだと思っていた。
けれど、実際は違った。
言うようにと覚えさせられた言葉を口から出せば弘文のオレへの触れ方は優しくなったし、怖い雰囲気も消えていた。
人の下の毛を剃るという狂気じみた行動はゆるせないし理解も出来ない。
それでも以前と同じようにオレのものであるような顔をする弘文を前にすると文句はあまり出てこない。
オレの知らない表情じゃない。それが嬉しいのかもしれない。
弘文が怖くない。口で何と言ったところでオレを本心では受け止めている。
オレだけが弘文に何だって指図できる。
わがままを聞いてもらえて許される。
だから、木鳴弘文はオレのものなのだ。
言葉にされなくても特別なんだと言われている気がする。
弘文の全部はオレだけのものだ。
集団のリーダーとして弘文は表面的に愛想がいい。
あくまでもそれは社交辞令だ。肩や腕が触れ合うほどの距離を基本的に誰にも許していない。
長い付き合いの相手だけは拒否しないが自分から肩を組みに行くことはない。
仲が良かったとしても気易くハイタッチや抱擁なんかしない。
それとなく嫌がって避けるのが木鳴弘文だった。
オレは会って二回目で距離を詰め、手に触れるのも抱きつくのも当たり前にしていた。
もちろん「なにすんだ」「ふざけんな」「やめろ」と繰り返された。
それでも結局、木鳴弘文のとなりはオレの居場所だし、好き勝手に引っ付いていた。
許されているのが思い込みだと気付いた今でもその感覚は消えない。
そこでオレは悟って割り切ることを覚えた。
肉体的につながるということは相手を独占することだ。
セックスをしている間は相手の時間も肉体の自由も全部、オレだけのものにできる。
それはオレだけの弘文だと言える。
ならば、その事実だけでいい。
目に見える現実だけを支えにする。
これ以上を望んではいけない。
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