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三十九
「……全部間違ってた、間違いだった」
一目見てオレは弘文を自分のモノだと確信した。
下鴨として子供を産まなければならない義務があるから、当然相手は弘文だと思った。
それはオレの一方的な願いだ。
弘文が付き合い続ける必要がないオレの義務の話。
そして、子を産む義務だって、すでに終わっている。
「弘文がオレを好きじゃないなら、こんなこと、いけなかったんだ。
久道さんは精子だけくれそうだけど弘文はそうじゃない。
今みたいに好きじゃないオレにしばられて不自由になってる。
オレのことを迷惑で面倒だって思ってるくせに家族だからって我慢してる。
ぜんぶ、おかしいことだ」
やはりオレには親の資格も責任もない。
ひたすらに弘文に嫌われないために別れたがっている。
これ以上はごめんだと心が悲鳴を上げていた。
それでもまだ弘文に良い顔をしていたいのだ。
子供たちがどう思うのかよりも弘文が今の生活をどう感じているかを気にしている。
出会ったときからオレはずっと弘文のことを考える自分中心にしか動けない。
「俺は今の生活がいやだって言った覚えはねえぞ」
「いま、楽しい?」
「かわいい子供に恵まれて頭がおかしいが健康な妻がいるし会社はそう悪くない滑り出しだし、毎日新鮮でいい」
オレの頭をなでながら弘文が言う。
頭突きをしたおでこが赤いのかもしれない。
「会社で現地妻作ってたらそりゃあ刺激的ですねぇ」
「気持ち悪いこと言うな。八割が男の職場だぞ」
オレの嫌味に弘文は吐く真似をする。
いつもの弘文に見えるがオレは誤魔化されたりしない。
おでこにキスしてくる仕草が格好いいが騙されない。
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