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番外:下鴨家の人々プラス「海問題25」

下鴨弓鷹視点。    家族仲は良いと思うし、不自由を感じたことはない。  定期的に家族旅行はするし、両親の夫婦仲が冷え切っているわけでもない。  恵まれている自覚はある。   「コウちゃんが、コウちゃんの行動はヒロくんだけは責めちゃダメだ」    柄にもなくコウちゃんが言葉を飲みこむ仕草をするのを見るたびに胸が痛い。  コウちゃんはとても自由で、言いたいことをやって好きなことをする。  それは世間からすると途轍もなく狭い範囲でのことだ。    コウちゃんの頭は悪くない。  俺たちに教えるために教科書を読んで自分で分かりやすいと思った解説をしてくれる。  ヒロくんや兄貴からすると逆に分かりにくくしているものでも俺は分かる。  コウちゃんの噛み砕いてくれた内容を受け取れる。    頭が悪くないのに今のこの状況をそのままにしている。  瑠璃川さんとコウちゃんとの会話に猛烈な違和感を覚えた。  二人はとても親密に見えるのに十年近く接点がないままだった。    妊娠出産の前後で寝込んだり育児をしていたらコウちゃんからしたら、あっという間かもしれない。  公園デビューなんて遅いぐらいのタイミングで今更感すらある。    そうなったのは間違いなくヒロくんのせいなのにヒロくんに自覚がない。  俺はそれを特別悪いと思っていなかった。  友達や知り合いや近所づきあいよりもコウちゃんは俺たち子供やヒロくんで自分の世界を満たしていた。  世間からすればとても小さな世界。    兄貴は首をかしげるし、弘子は勝手だとヒロくんを批難するけれど、他の誰でもないコウちゃんが気にしていないので俺は良いと思っていた。  コウちゃんはヒロくんの束縛を何とも思っていない。窮屈だと感じることもなく平気でいる。    むしろ、どこか嬉しそう。    ヒロくんにされて嫌なことがコウちゃんにはない。  そう思っていたけれど、コウちゃんだって心がそこまで広くない。狭いぐらいでちょうどいいと思っている。小さな心だと自分の全部を分かるとコウちゃんは笑っていた。    ヒロくんと外との繋がりがコウちゃんは嫌い。  嫌いでも嫌いだと言わない。  それはコウちゃんらしくない配慮というものだと思っていた。  大人だから遠慮する。    でも、気分を落ち込ませるコウちゃんを見ていると配慮も遠慮もいらないものに見える。  言葉を飲みこんで小さな自分の心を隠していく。    ジグソーパズルやレゴブロックを作るのは無心になれるからだ。  心がないから傷つかない。何かに打ち込んでいれば痛くない。  同時に子供たちとのコミュニケーションツールにもなる。    俺は家族の誰よりもコウちゃんの気持ちがわかると思う。    心を真っ白にしたい時はイラストのない真っ白なパズルを繰り返しやる。  ときに俺に「ここのピースはどーこだ」と謎かけしながら完成させる。  子供に愚痴が吐けないというわけじゃない。愚痴未満なんだ。言葉にならない不安をパズルを作り上げた達成感で吹き飛ばす。    レゴブロックは一つあるかないかで見た目が変わる。  いるかいらないか、この色が正解か二人で顔を見合わせて全部口にしないでも通じる。   「コウちゃんは俺たちのための言葉はちゃんと口にするけど、自分のための言葉は足りない」 「そうだろ、俺もそう思う」 「全部、ヒロくんのせいだ」    どうしてそうなるんだと顔に出ているヒロくんはわかってない。知ってるくせにわかってない。  自分がコウちゃんにどう思われているのか知ってるくせにわかってない。兄貴がズルいというヒロくんの悪いところだ。

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